自主・自律の精神を宿す選手たち
グラウンドで「答え」を見つけ出す

昨夏の西東京大会でベスト16に進出した豊多摩。同校は制服のない自由な校風として知られる。自主・自律の精神を宿す選手たちは、自らの意思で勝利をつかみ取っていく。

■2019年夏に初ベスト8

都立伝統進学校・豊多摩は2019年夏に初ベスト8へ進出、昨夏は4回戦で啓明学園に勝利して5回戦で創価と対峙した。2年生だった中村拓磨が先発し5回無失点でゲームを作ると2対0で5回を折り返した。劣勢となった創価は、森山秀敏、土居賢士郎のダブルエースを投入し、豊多摩に傾いた流れを変えにかかった。豊多摩は6回以降、継投策に切り替えたが、本気になった創価を止めることができずに2対9で敗れた。ベスト8進出は逃したが、都立の意地をトーナメント表に刻みつけた。

■全員の声で盛り上げていく

2025年のチームは、創価戦でレギュラー出場した吉川歩主将(3年=内野手)、河村恭佑(3年=捕手)の二人が残り、エースとなった中村に劣らない力を秘める右腕・宮下功士(3年)も力を伸ばす。エース中村は入学直後、野球から離れてハンドボール部に入るつもりだったというが、入部期限最終日に野球部に戻ってきたユニーク派。中村は「去年の夏に良い経験ができたので野球部を選んで本当に良かった。今年の夏は、もっと勝ち上がりたい」とマイペースに調整を進める。4月を前に各ポジションでレギュラー争いが激化。ショートのポジションでは、赤上颯(2年=内野手)が存在感を発揮している。打線は河村、小牧秋人(3年=外野手)、中川尊琉(3年=内野手)がクリーンアップを形成。高校から野球を始めた清水啓介(3年=外野手)が地道な努力を積み重ねてチームに刺激を与えている。吉川主将は「全員の声で盛り上げていくチーム。個性派が揃っているが同じ方向へ進むことで夏の結果をつかみたい」と牽引する。

■選手たち自らがチームを作る

豊多摩卒業生の詩人・谷川俊太郎さん(故)は1968年、母校へ「あなたに」という詩を贈り、以来、卒業式では代表朗読されているという。火と水と人間の功罪をテーマにした詩で、「矛盾にみちた未来のイメージを贈る あなたに答えは贈らない あなたに ひとつの問いかけを贈る」と締めている。豊多摩は、自主・自律の精神を柱として、その自由な校風が生徒たちの未来を照らす。野球部も自主・自律の精神に則り、指導者の助言を受けながら、選手たち自らがチームを作り上げていく。指導者たちは「答え」を伝えない。選手たちは、グラウンドで答えを見つけ出していく。問いかけに対して、日々考えていくことが夏の飛躍につながっていく。

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