安西叶翔、鈴木叶をプロへ送り出した強豪
スター不在の今夏は全員野球を追求
昨年、甲子園の土を踏んだ強豪が苦しんでいる。今期の常葉大菊川は秋、春と悔しい結果に終わり、夏への思いはひとしお。最後に勝って泣くために、チームは一つになる。(取材・栗山司)
■勝って泣けるチームへ
全国優勝を含む春夏通算11度の甲子園出場を誇る強豪の常葉大菊川。指揮をとるのはOBの石岡諒哉監督だ。2007年春の選抜大会で田中健二朗(現くふうハヤテ静岡)とバッテリーを組んで日本一に。卒業後は社会人野球の新日本石油ENEOS(現ENEOS)でプレーした経験を持つ。「戦う姿勢をENEOS時代に学びました。高校野球と社会人野球は違いますが、社会人の選手が都市対抗で見せるような『何が何でも勝ちたい』という気持ちが前面に出るようなチームにしていきたいと思っています」。
その上で指揮官はこうも熱く語る。「苦しんで、もがいて勝つから意味があると思っています。必死にやった上で、最後に勝って泣く。選手たちにはその達成感を味わってほしいんです」。
打撃練習では自ら投手役を務め、ブルペンで投手の球を受ける。主将らと練習メニューを一緒に考えることもあり、選手との距離が近い。
■カバーし合う野球
そんな石岡監督のもと、昨年は10年ぶりに選抜大会に出場。一昨年の安西叶翔に続き、昨年は鈴木叶がドラフト会議で指名を受けてプロに進んだ。
だが、新チームとなった昨年の秋、今年の春は悔しい結果に終わった。いずれも県大会で完封負けを喫した。指揮官は「練習に対し一生懸命に取り組み、一冬で体が大きくなって間違いなく成長しています。何か一つのきっかけで変わるチームです」と期待を込める。
本来、チームの中心となるべき存在だった左腕の久保綾哉(3年)や俊足巧打の鈴木徠空(3年=内野手)が故障で苦しんだことに加え、春は鍛えてきた打撃力を発揮できなかった。
大会後は主将の山下結風(3年=外野手)を中心に、「全員でカバーし合う野球」をテーマに掲げた。「新チームが始まったときは、甲子園メンバーも残っていたのでいけると思っていたのですが上手くいかなくて。誰か一人に頼るのではなく、全員で戦い、ミスしたところも全員で補うことにしました」。
■6年ぶりの夏甲子園へ
春の大会後は練習や試合を重ねるごとに結束力が高まってきた。今年は「観察力」という武器がある。例えば攻撃面なら、相手の守備位置を見ながら攻め方を考えていく。「能力がない分、観察して頭を使うことで補っています」と山下。メンバーも揃い、練習試合では春愛知大会優勝の享栄に勝利し、春三重大会優勝の津田学園とは引き分け。確かな自信を手にした。
苦しみが大きかった分だけ、勝ったときの喜びは大きい。ノーシードから6年ぶりの夏甲子園へ。ピンストライプ軍団の逆襲が始まる。