名将の錬成、2年分の想いを込めた夏
団結力を武器にいざ夏へ
強豪の一角に定着した星槎国際湘南。就任7年目を迎えた名将・土屋恵三郎監督の教えはナインの血潮となって生き続ける。(取材・三和直樹)
■オーラを感じる男に
雨上がりの球場に部員たちのハツラツとした声が響く。それに負けじと声を張り上げ、力強くバットを振る。「俺は言うだけじゃなくて、実際にやるんだよ」。昨年からのコロナ禍で様々な制限を受け、我慢と忍耐の日々が続くが、67歳となった土屋監督の気力と情熱は変わらなかった。
「言い続けていることは“オーラを感じる男になれ”ということ。そのためにはまず、明るさがないとダメ。やる気も大事。そして我慢強さも必要。この3つが備わると、野球に限らず、社会に出てからでも活躍できる人間になれる」 2015年1月から監督としてチームを指導して6年半が経過。選手たちは全寮制の中で心身を鍛え上げ、団結力を高めてきた。そして指揮官の「高校野球にはドラマがある。いろんな人にパワーを与えることができる。だからこそ、どんな時でも元気を出さないといけない」という教えの下、ナインたちは元気ハツラツな「必笑野球」を貫き、全力で白球を追い続けた。
■確かな成果を残してきた
エリート集団ではない。だが、「どんな子にも可能性がある。しっかりと教えてやれば、成長する」と言い切る。全寮生活の中で基本を徹底。投球、打撃のノウハウを分かりやすい言葉を用いてアドバイスし、時には土屋監督自らがお手本を見せながら手取り足取り教え込む。 その熱血指導の下、チームは2017年春、2018年夏、そして独自大会となった昨夏と3度に渡って4強入り。高卒でプロ入りした本田仁海(2018年卒、現オリックス)だけでなく、東京六大学や東都、首都、神奈川の各リーグの大学や系列校の星槎道都大への進学者を増やした。今春に武蔵野大へ進学した茂木陸は1年生ながらベストナインに選出。またプロ4年目の本田は、7月6日の楽天戦で初先発。5回2失点の好投でファンの期待に応えた。卒業生たちの活躍を受けて土屋監督は「うちの子は卒業してから伸びるんだよ」と笑みを浮かべる。
■土屋野球を見せつける
今年のチームスローガンは『甲子園で土屋野球を見せつける』だ。「去年の3年生と一緒に考えたスローガンを引き継ぎました。先輩たちの想いも背負って、感謝の気持ちを持って戦いたい」と中平颯馬(3年=内野手)は力を込める。中平主将と佐野忍虎捕手(3年)がチームの中心で、4番にはパワー自慢の石﨑知紀(2年=外野手)が座る。各ポジションで競争が激しく、投手陣もエース右腕・小林匠(3年)を中心に駒が揃っている。
土屋監督は「3年生にとっては最後の高校野球になる。試合に出られない仲間の想いも背負って、チームを代表して思い切り暴れ回って欲しい。自分のためじゃなく、誰かのために野球をやる。親のため、仲間のために、全力でプレーしてもらいたい」と夏の舞台へ送り出す。寮生活ではお互い助け合い、グラウンドでは切磋琢磨。仲間が誕生日なら全員で祝う。コロナ禍で難しい時期が続く中、より一層、絆は深まった。 その証を今夏、「土屋野球」として見せられるか。その答えは、彼ら自身の心の中と、これから歩んでいく未来にある。