「考える習慣をつけることが大切」
ゴールデングラブ賞2度のいぶし銀の捕手
今季から中日1軍バッテリーコーチ
南海で1年5カ月、広島で17年7カ月、巨人で1年の計20年間プロで活躍したいぶし銀の捕手・西山秀二氏。中学時代は、桑田真澄氏とバッテリーを組んだ経歴を持つ。今シーズンからは中日1軍バッテリーコーチとして指導にあたるレジェンドが高校球児にメッセージを送る。
野球漬けの中高時代
―中学時代は、桑田真澄氏(元巨人。現巨人コーチ)とバッテリーを組んでいました。
「(桑田氏は)中学時代から、あのままでしたね。中学校で暗くなるまで一緒に練習して、帰宅後にもみんなで河川敷を走っていたと思います。僕も含めて、みんな純粋に野球が大好きで、どれだけ時間があっても足りないくらいでしたね。しんどい練習でも、みんなが楽しんでやっていました」 ―高校時代、桑田氏はPL学園へ、西山さんは上宮高へ進みました。 「あのときのPL学園(1983〜85)は、桑田、清原がいて、高校野球のレベルを超えていたと思いますね。桑田が投げたら高校生は簡単には打てないですし、桑田はバッターとしてもプロレベルだったので、本当に凄かったと思います」
―上宮高の思い出は?
「1年生の秋から試合に出られるようになりましたが、厳しい練習についていくのが精一杯でした。桑田は、1年生の夏に甲子園で優勝してフィーバーになっていましたが、僕はそれどころではなかったです。努力というよりも朝から晩まで野球漬けの生活で、とにかくしんどかったです(苦笑)」
―桑田氏との対戦は?
「高校2年秋の大阪府大会準決勝で対戦して、試合には負けましたが、ホームランを打つことができました。僕は、中学時代に毎日ボールを受けていたので、打ちやすかったんです。プロに入ってからも、結構打っていたと思います。言葉で説明できないのですが、彼がカーブを投げるとき直感で分かったのです。それによってストレートを捕えることができた。打席に立ったときだけ、それが分かって不思議な感覚でした」
―高校時代、キャッチャーとして学んだことは?
「僕のときの上宮のエースはサイドスローで、ワンバウンドがないのでキャッチャーとしての技術が身につきませんでした(笑)。中学時代の桑田は、ミットを構えた場所にボールが来るので、苦労はしませんでした。だからプロに入ってから苦労しましたね」
プロで学んだキャッチャーの仕事
―高校卒業後、ドラフト4位で南海へ。
「周囲に進路を相談したときに大学進学の道があったのですが寮生活の上下関係の中でまた1から始めるのが嫌だったので、社会人かプロを希望しました。近鉄と南海から4位指名をもらって、抽選で南海に決まりました」
―桑田さんがライバル?
「僕はドラフト4位で彼は高校時代に活躍してドラフト1位ですから、ライバルという感じではなかったです。ただ、プロに入ってから、桑田から打ちたいという気持ちはありました。2005年の巨人時代は、桑田ともう一度バッテリーを組むことができたのも良い思い出です」
―プロ20年間のキャッチャー経験から高校生に伝えたいことは?
「キャッチャーは、考えることが仕事です。起こりうる状況をいろんな角度から考え抜いて、最良の判断をしなければいけません。マスクをかぶったら誰も助けてくれません。野村克也さんが『キャッチャーは9割が考える仕事』とおっしゃっていましたが、その通りだと思います。考えるベースがあって、その土台の上に技術があります。捕手は、経験、知識、情報を踏まえた上でベストの選択が求められます。考えることが仕事です」
観察>セオリー
―高校生キャッチャーにアドバイスを。
「普段の練習、練習試合などがありますが、とにかく選手をみて、考える習慣をつけることが大事です。物事には、必ず理由と原因があります。ピッチャー、バッターを観察することで、これまで見えなかったことが見えてきます。毎日、観察して、考える習慣ができれば、それが積み上がっていって大会につながっていきます。考える力を身につけることができれば、大学、社会でも生きていくと思います」
―リードのヒントをお願いします。
「バッターの動きをみながら、何を考えているのかを確認していくと良いと思います。バッターの一番近くで、プレーするのがキャッチャーなので、息遣い、表情、空気を感じてほしいと思います。一球一球のバッターの反応や表情を観察して、タイミングが合っているのかを見なければいけない。その見極めが重要になります」
―リードにはセオリーと呼ばれる定石もありますが、それがすべてではないのですね。
「バッターを見ずに、カウントで球種やコースを決めるセオリーもありますが、大切なのはバッターの動き。セオリーがすべてではありません。そのためには、日頃から観察し、考えることが大事になってきます。毎日、観察していると、バッターの心理が見えてくる瞬間があります。そこまでバッターを観察して実践してほしいと思います」
―高校生に伝えたいことは?
「高校野球は3年間だけですし、人生も一度なので、野球、勉強を含めて自分の好きなようにやってほしいと思います。今できること、やってみたいことにチャレンジしてほしいです。今しか経験できないこともあるので、後悔のない高校生活、高校野球の時間を過ごしてください」
PROFILE
西山秀二(にしやま しゅうじ)
1967年7月7日大阪府生まれ。上宮高―南海―広島―巨人。八尾中時代は、桑田真澄氏とバッテリーを組んだ。高校卒業後にドラフト4位で南海へ。2年目に広島へトレードとなり、17年間マスクをかぶる。2005年現役引退。巨人バッテリーコーチ、解説者などを経て2022年から中日バッテリーコーチ。