愚直に、粘り強く戦っていくだけ
春季東京都大会で初優勝第1シードで東東京大会へ

春季東京都高校野球大会で初優勝を果たした東亜学園。1989年夏以来の甲子園を目指す伝統校は今夏、第1シードとして東東京大会へ臨む。就任9年目を迎える武田朝彦監督に、チームビジョン、そして夏への心境を聞いた。

■史上最弱の「勝てるチーム」

春季都大会2回戦で、昨夏甲子園準優勝の関東一を撃破して勢いに乗ると、準々決勝で国学院久我山、準決勝で八王子、決勝で東海大菅生に勝利して初優勝を飾った。
 「学校として春の優勝は初めてだったので喜びはありますが、すぐに夏がやってくるので引き締まる思いです。監督就任9年目になりますが、今年のチームは一番、個人の能力のない世代です。ただ、個力はないが勝てるチームだと選手たちに伝えていました」
 2023年夏には決勝へ進出し、甲子園まであと1アウトに迫りながらも惜敗。昨夏は準々決勝で二松学舎大附に惜敗、世代が変わった昨秋は2回戦で小山台に屈した。個人力のない世代だったが、新チームには手応えがあったという。
 「秋も勝てる算段があったのですが、自分たちの準備不足によって自滅してしまいました。学校生活から生徒たちと一緒にいれば勝ちパターンや負けパターンが見えてくるのですが、秋は想像できない負け方でした。私自身、まだチーム・選手を把握できていなかったという意味で反省があり、そこからもう一度、チームを立て直してきました」

■3月の関西遠征でチームに変化

冬の間は、基礎練習はもちろん、日常生活から見直していった。できなければ何度もやり直す日々。最近の流行りの「タイパ」や「コスパ」とは真逆の時間となった。そして3月下旬に5泊6日の関西遠征に出掛けた際、チームに変化の兆しが見えたという。
 「オフシーズンは少し良くなったかと思えば、また失敗して“振り出し”に戻る毎日でした。ただ、妥協せずに何度も1からやり直したことによって生徒たちに変化が見えてくるようになりました。関西遠征では強豪校と練習試合を組ませてもらったのですが、試合以上に移動や宿舎での行動が素晴らしかったのです。私は生徒たちに『新チーム結成以来、最もいい時間だったぞ。この時間を春につなげていこう』と素直に伝えました」
 春都大会を迎えたチームは、2回戦で関東一と対戦した。4点を先制しながら終盤に追い付かれる嫌な流れ。だが、選手たちは9回裏にサヨナラで勝ち切って“番狂わせ”を起こしてみせた。それは、甲子園目前にして敗れてきた経験が活きた瞬間だったという。
 「1点を恐れないようになりました。1点を守ろうとすると、どうしても野球が窮屈になります。関東一戦でも4対0から相手の反撃を受けましたが『4点を失っても同点だから』と選手に伝えていました。同点にされても想定内。その意識が勝ち越しにつながったと思います」

■小さな変化が大きな成長

春都大会の対戦相手は甲子園実績校が続き決して簡単なブロックではなかったが、一歩一歩、トーナメントを這い上がった。勝ち上がれば、チームに色気が出てもおかしくないが、戦いにブレはなかった。準決勝の延長タイブレークでは4番の選手が2ストライクからスクイズを決めて劇的勝利、決勝戦の東海大菅生戦ではスクイズのシーンで、頭上にボールが来たが執念でバントを決めて1点を奪い取った。
 「フリー打撃は試合前日以外はやりません。うちは打ち勝つチームではなく、少ないチャンスを得点につなげていくスタイル。勝つために何が必要かを考えれば、おのずとやるべきことは決まってきます。春優勝後に、バットを長く持ってぶんぶん振っている選手がいたので『勘違いするなよ』と伝えました。勘違いしてはいけません。自分たちのスタイルを愚直にやり続けることだけが勝利の道だと考えています」
 監督就任9年目、能力の劣る選手たちが、関東一・帝京・二松学舎大附など東東京強豪に勝つには練習を積み重ねるしかない。がむしゃらに突っ走ってきたがコロナ禍によって小休止。ただ、脱・コロナ禍が指導を考えるきっかけになったという。
 「コロナ禍によって、社会全体が変わったのは事実だと思いますが、私の判断基準が曖昧なままになってしまったと感じました。コロナ禍が落ち着いたあとも、グレーのままになってしまった点もあったので、心を鬼にしてチーム規律に沿って白か黒かをはっきりさせました。私たち指導者があらためて明確なルールを作ることによって生徒たちの意識が変わり、行動に変化が見えてきました。小さな変化ですが、生徒たちにとっては大きな成長なのだと感じています」
 チームとして監督としても初の第1シード。トーナメントリーダーの位置から36年ぶりの甲子園を狙う。
 「夏は、甘さがあれば悔しい思いをします。過去の選手たちは甲子園を目前にして何度も悔し涙を流してきました。勝負所では1点が重要。36年ぶりの甲子園?まったく見えていません。春都大会後の関東大会では初戦で敗れましたが、うちは力のないチーム。春優勝の余韻にひたっている時間はありません。夏の第1シードという立場は考えずに、どのチームよりも謙虚な姿勢で大会へ臨むだけです」

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