打倒私学への挑戦と進化
新監督による新たな時代の幕開け
2018年秋にベスト4入りを果たすなど、公立の雄として存在感を見せてきた厚木北。昨秋から新体制となり、新たなチーム作りが始まっている。(取材・三和直樹)
■バリエーションを増やす
冬晴れの空の下、グラウンドにはこれまでとは異なる声が響いていた。5年間チームを率いた加賀谷実監督が2021年3月をもって異動。嘉藤有紀監督で臨んだ昨夏の大会後、新たに森山純一新監督体制でスタートを切った。
「今までの厚木北のイメージを覆す戦い方をしたい。最初は戸惑いがあったと思いますが、選手たちはよく付いて来てくれています」(森山監督)。これまでの部訓は『全員野球、攻撃野球』だったが、真っ向勝負をするだけでは個人能力の高い県内強豪私学を倒し切ることはできなかった。「攻撃を生かすためにも、まずは守りから。相手の嫌がることをして、戦い方のバリエーションを増やしたい」と指揮官。きめ細やかな「守備」と着実に点を奪いながら、時には相手の意表を突く「小技」をプラスしたい考え。「AKY」(A=厚木北高校野球部が、K=神奈川/甲子園で、Y=優勝する)を目標に、新たなチーム作りを進めている。
■「朝練中止」と「多くの目」
昨秋の新チーム発足後、変えたことの一つに「全体での朝練中止」がある。通例だった朝7時から約1時間の練習を自由参加の個別練習に変更。睡眠時間をしっかりと確保した上で「まずは授業をしっかり受けること。学校生活に余裕がないと周りのことにも気付けない」と森山監督。科学的に体作りを進め、コンディションを整えた上で練習の質を向上させた。
また、昨年4月から「高校野球に携わりたい」と元高校球児の2人、横浜高卒の井上和也さん、創志学園卒の谷亀柊平さんが、土日にコーチとして選手たちを指導。「2人とも20代で、高いレベルのプレーを間近でお手本として見せてくれるし、強豪校で培ってきた野球観を持っている。何より、生徒たちを見る目は多い方がいい」と森山監督。グラウンドの全方向から指導の声が飛び、選手たちの成長を促進させている。
■コロナ禍からのリベンジ
ただ、新チームで臨んだ昨秋は悔しさを味わった。大会直前に部員全員が新型コロナの濃厚接触者となりブロック初戦を棄権。活動再開後に第2戦へ臨んで勝利したが、第3戦の上溝南戦に敗れて予選敗退。田村諒太副主将(2年=外野手)が「流れが悪くなった時に声が出なくなってしまった」と話せば、鈴木雄太主将(2年=内野手)は「自分たちの実力が発揮できずに終わってしまった。難しい状況だったが、普段の練習から本番を想定する意識が足りなかった」と振り返った。
選手個々の自覚の向上とチームの成長に対し、森山監督は「自分たちで考えて、いろいろと話し合って、時にはぶつかり合って成長する。みんな真面目で一生懸命。面白い戦いができるようになるはずです」と手応えを感じている。コロナ禍は続くが、厚木北のグラウンドに飛び交う声は熱を帯びている。その傍らを吹き抜ける風は、新たな希望に満ちている。