恵まれた環境の中で育む「力」
チーム一丸となって波乱を起こす
都内最大級の敷地面積を持つ都立松が谷。コロナ禍を乗り越え、「秋の手応え」と「新たな刺激」を糧に「冬の成長」を誓う。(取材・三和直樹)
■チームワークの良い18人
多摩ニュータウンの丘陵地の高台にあるグラウンドに、松が谷ナインの明るい声が響く。1年生11人、2年生7人の計18人の選手と女子マネージャー5人。「今年のチームの特徴は元気があること」と山下航主将(2年=内野手)。上級生と下級生に境目のないチームワークの良さも雰囲気の良さを生んでおり、「元から力がある子が何人も入って来るわけじゃないけれど、その分、伸びしろがある。練習に一生懸命取り組む子が多いので楽しみ」と佐々木重任監督も期待を寄せる。
中学時代に優れた実績を残した選手や個人能力が特別に高い選手がいる訳ではないが、十分な広さと設備を持ったグラウンドを持ち、練習環境は整っている。その中で現チームには、「テンポ良く投げてバックが守りやすいピッチングを意識しています。一番自信のある球はストレート」と胸を張る川佑治(2年=投手)と、「チェンジアップとカットボールが得意」と多彩な変化球を操る曽我櫂大(1年=投手)の2人の180センチ長身右腕がダブルエースとして君臨。打線では「強い打球で野手の間を抜くことを意識しています」と語る伊勢川稜大(1年=内野手)が主軸に入り、守備時には山下主将が「ミスをした時でもすぐに声をかけて、試合中に絶対に下を向かせないように心がけています」と常に声を出してチームを活気付ける。
新チームとして臨んだ秋は、コロナ禍に見舞われて主力数名を欠いた中でもチーム一丸となり、1次予選1回戦で明星学園に7対2の快勝。続く拓大一には1対6で敗れたが、2試合を通じて「思ったよりは戦えた」(佐々木監督)、「いい雰囲気で戦うことができた」(山下主将)と手応えを感じている。
■スタンドから見た強豪校の戦い
11月、松が谷ナインの姿は神宮球場のスタンドにあった。明治神宮大会の準々決勝、仙台育英対沖縄尚学、広陵対東海大菅生の2試合を現地観戦。強豪校のプレーを間近で感じた。
そこで気付いたことは「目指しているものは変わらない」ということ。「実力差はあっても同じ高校生。打撃ならセンター中心に低い打球を打つ。自分たちが普段から言っている声が、強豪校のベンチからも出ている」と佐々木監督。試合前の準備、イニング間の動き、ベンチからの声…。実際に対戦しないと体感できない部分を“見習う”と同時に、「俺たちもやればできるはず」という思いを強くした。すぐにチームミーティングを実施。2年生エース川は「僕自身も得るものが多かったですけど、他のみんなも刺激を受けて、練習中のキャッチボールの時から動きが変わった。全員が高い意識を持って練習できるようになった」と話す。自分たちの目指す方向を改めて固め直し、思いを強くした。
「明るく元気な子が集まっている」と佐々木監督は笑みを浮かべる。現在のチーム力は「まだ体力も技術も、勝利への執着心も足りない」と冷静に分析するが、「自分たちもその気になって、意識を高く持って練習すれば、冬の間に大きく成長できると思う」と松が谷ナインの可能性を信じている。まずは自分たちが、自分たちの「力」を信じること。春、そして夏へ。逞しく育った姿を、披露する。