公立進学校の新たな取り組み
選手主体の「プレーヤーズジャッジ」
公立進学校・前橋南に新たな風が吹き始めた。選手たちは、自らで考えながらトレーニングに励み、新たな道を切り拓いていく。
■今秋から新指揮官でスタート
大きなポテンシャルを秘めたチームだ。
2018年まで大須賀誠一監督、2021年夏までは福島清隆監督が指揮。前橋南の選手たちの特長を生かしながら、活気あふれるチームを築き上げてきた。そして今秋から、前・前橋高指揮官の安田智則監督が就任した。2019年春に前橋南へ着任し2年半にわたり野球部部長を務めてきたが、新チーム始動のタイミングでバトンを受け取ることになった。部員数は2年生7人、1年生8人の計15人。コロナ禍で練習時間が制限された中でのスタートとなったが、グラウンドには選手たちの活気あふれる声が響くようになってきた。新指揮官は、選手たちの力を引き出しながらチームを構築している。
■選手たち同士が考えてプレー
安田監督の脳裏には、前任の前橋高時代の2018年度にトライし手応えをつかんでいた指導法があった。選手主体の「プレーヤーズジャッジ」だ。監督と選手が戦略を共有しながら、選手たち自らのシグナル(サイン)で行動する野球。選手たちだけで判断する「ノーサイン」とは一線を画す。3年ぶりに指揮を執る安田監督は、前橋南で選手主体の「プレーヤーズジャッジ」を取り入れていった。練習は、チームの方向性を確認する場。試合では、監督がサインを出さずに、選手たち同士が考えてプレーしていく。
指揮官は「選手自身が考えることで100%以上の力を発揮することがあります。簡単な方法ではないと思いますが、選手たちが自分たちの意志で思い切ってプレーしていく、そんなチームにしたいと思っています」と話す。副将の吉岡飛翔(2年=外野手)が「いまは失敗の方が多いですが、自分たちで判断することで、野球について深く考えるようになりました」と話せば、小井戸琢夢主将(2年=内野手)は「野球を、より楽しめるようになっています」と変化を実感する。新たなチャレンジが、選手そしてチームを成長させている。
■選手の意志が進化の原動力
部員数は15人と決して多くはないが、学年の枠を超えたフラットな競争によって1年生も力を伸ばす。今季のチームのスローガンは「粘」。チームの課題を話し合う中で、選手たち自身が決めた言葉だ。攻守に粘り強く戦い、最後まで食らいついていくことを目指す。そのためには、日々の練習から「粘」を表現する必要があるという。全員野球を志すチームは、各選手の個性をチームにインプットすることでスケールアップを試みる。
打撃の軸は、1番・枝野仁生(2年=内野手・投手)、3番・吉岡、4番・割田遥大(2年=捕手)。1年生の黒澤凰太朗(内野手・投手)も打率を伸ばす。投手陣は宮永亥晟(2年)、枝野のほか平形陽哉(1年)らがマウンドに立つ。守備では、ショートの小井戸主将、センターの田所宙(2年)が果敢なプレーをみせていく。チームは未完成だが、伸びしろは十分。前橋南の主役は、監督ではなく選手。選手の意志によって、チームは進化していく。