仲間への感謝、保護者への感謝、学校への感謝
公立で甲子園出場を信じ本気で挑む
県立伝統進学校・海老名が力を伸ばしている。県立で甲子園を本気で目指すチームは、仲間への感謝、保護者への感謝、学校への感謝を忘れずにグラウンドに立つ。
■本気で甲子園を目指す意志
「海老(エビ)高」のグラウンドには情熱があふれている。その練習から、本気で甲子園を目指す意志が伝わってくる。海老名は2020年夏の独自大会で5回戦へ進出、2021年夏の神奈川大会では4回戦まで駒を進めている。今夏は3回戦で藤沢清流に屈して3回戦敗退、今秋は1回戦で川崎北に勝利、2回戦では横浜創学館に敗れたが、全員野球を展開してみせた。勝利をつかみ取るためのメンタリティーは着々とチームに根付きつつある。次なる壁を越えれば、一気に視界が開ける可能性を秘めている。
■「弁証法」を使って野球部強化
チームを率いるのは、早大大学院卒の哲学(地歴公民科)教師・川﨑真一監督だ。早大時代から母校・相模大野で学生コーチを務めて高校野球指導の道へ。「自分は高校野球から多くを学んだ。それを生徒たちに伝えていきたかった」(川﨑監督)。秦野総合を経て2018年に海老名に着任。2年間部長を務めたのちに2020年夏から指揮を執る。指揮官は、「弁証法」を使って野球部強化に取り組む。シンプルに例えれば、「海老名高校で甲子園に行きたい」、でも「勉強がおろそかになる」。では「勉強に力を入れながら甲子園を目指そう」という考えだ。海老名では、いろいろな意見を受け入れて発展させていく。チームスローガンは「仲間への感謝、保護者への感謝、学校への感謝」。三本指で海老名の「E」を作るのが感謝の合図だ。
■キャッチャー交代の奇策は「本気の証」
海老名は今秋に奇策を試みた。1年生捕手・角谷楓太の二塁送球に課題があったため、キャッチャーの角谷がセカンドへ、セカンド後藤宏基(2年)がショートへ、ショートの斉藤澪生(2年)が捕手へポジション交代した。レガースの装着に時間がかかるため着脱の練習を徹底し20秒以内で遂行。ランナーが出るたびにそれを繰り返した。1回戦の川崎北戦では、作戦が奏功して1対0で勝利。2回戦では0対7で敗れたが、自分たちの戦いを表現した。キャッチャー交代も「本気の証」だ。今季のチームは、髙井朔斗主将(2年=投手・内野手)を軸に、アンダースローのエース工藤隆生(2年)、高校通算12本塁打の後藤ら個性が光る選手が揃う。川﨑監督は「本気で甲子園を目指せば目指すほど、甲子園への“距離”が遠く感じる。ただ、挑戦しなければその距離は分からない。挑戦し続けることで距離を詰めていきたい」と語る。選手があきらめない限り、海老名の挑戦は続いていく。