2020年夏西東京大会準優勝
改革でつかんだ新たな歴史
2020年夏西東京大会準優勝を果たした佼成学園。
選手の考えを尊重する新たなスタイルで結果を残すチームは、東京の頂点を虎視眈々と狙っている。
2020年10月号掲載
■指揮官が選手に送ったメール
5月20日に甲子園大会中止が決まったとき、藤田直毅監督は言葉が出なかったという。
ウェブ会議システムでのミーティングも考えたが、ネット越しに顔を合わせることが辛かった。
指揮官は、すぐさま言葉をしたためて、メールでメッセージを送った。
そこには監督の人生が書かれていた。
社会人監督を引退し、野球にケジメをつけるために母校・佼成学園へやってきた。
野球に別れを告げるはずだったが生徒たちの純粋な目をみて、高校野球の世界へのめり込んだという。
指揮官は、これまでの心境を素直に綴った。
「私は縁があって君たちと出会えた。学校が再開したら、また一緒に野球をやろう。私にとって、君たち高校生が人生のすべてだ」。
佼成学園の選手たちはこの言葉を胸に、今夏西東京大会に臨み、準優勝という結果を残した。
■選手主導のチームへ方向転換
藤田監督の指導は、この20年間で大きく変わっていったという。
過去においてはチームの枠に選手をはめ込むことが多かったが、結果が出なかった。
夏大会後、選手たちが悲しい目をしてチームを引退する姿を見てきた。
憎まれても自分の信念を貫くことが大切だと思ってきた。
だが、チームは壁を越えることができなかった。
西東京の強豪・日大三には10回連続で負けていた。
藤田監督は「勝てないのは、何か理由があるから。同じことをやって結果が出ないのであれば何かを変えなければいけないと考えました」と振り返る。
そして、選手主体の野球へ方向を変えていった。
「自分の信念やプライドを守ることより、選手の考えを尊重して、その成長を見守ることが大切。それに気づいてからチームが変わっていった気がします」。
■選手投票を加味し主将選出
今夏の西東京大会準優勝となった佼成学園だが、この秋も新たな試みを取り入れた。
例年は、監督、コーチが主将を決めていたが、初めて「選手投票」を採用し、選手たちの声に耳を傾けた。
そして、主将に福岡元翔(2年=内・外野手)を選出、前野唯斗(投手)、野沢京平(捕手)、浅井塁成(内野手)の3人を副将とした。
福岡新主将はコロナ休校期間中に2年生のインターネットミーティングをまとめるなど、指導者の見えないところでチームに貢献していたという。
藤田監督は「選手投票をしたからこそ、福岡のキャプテンシーに気付くことができました。投票後に、選手たちの行動をみて、最終的に主将、副将を決めました。
夏大会は準優勝だったので、まだ何かが足りないということ。
今回の取り組みは、東京で勝つための次の一歩です」と語る。
1・2年生は計80人。
練習では選手同士で伝達し、教え合うことで成長を促す。
「技術を習得した選手が、ほかの選手にそれを伝えていく。江戸時代の寺子屋のような方式。私たち指導者が、選手の成長を見守るのが理想だと思います」(藤田監督)。
佼成学園は、選手の力で東京制覇を目指す。