
選手たちの力をいかに引き出すか
選抜2連覇を狙う関東の雄・健大
昨年の選抜で悲願の全国制覇を果たし、今春に2連覇を目指す健大高崎(群馬)。指揮24年目の青栁博文監督にチーム状況や指導法を聞いた。
⚫︎横浜と対戦し日本一レベルを把握
―150キロ超のストレートを投げるエース石垣元気の状態は?
「選抜開幕を控えての仕上がりは非常にいいし、気持ちも充実していると感じる。秋の関東大会を終えて、ストレートのスピードにこだわらず、球の質と変化球の精度を意識してトレーニングに取り組んできた。力感なく質の高いボールが投げられるようになっていると思う」
―秋の関東大会決勝で横浜に敗れて準優勝となった。横浜は意識する相手か?
「横浜に負けたのは現実としてしっかりと受け止めている。あの時点では力が足りなかったことは事実。横浜は明治神宮大会でも優勝したので、うちの選手たちは日本一のレベルを経験したことになる。ただ、選抜では横浜だけが相手ではないので、目の前の試合に集中するだけ。昨春の選抜でも一戦一戦に向き合った結果が優勝につながった。初戦が大事になってくると思う」
―去年のチームは箱山遥人主将(トヨタ自動車)など“スター揃い”だったが今年の特徴は?
「去年は下級生から試合出場し実績を残した選手が多かったが、今年はBチームからの“叩き上げ”。昨年、Aチームに入れなかった秋山潤琉はひたむきにバットを振って『不動の3番』に成長した。キャッチャーの小堀弘晴は、箱山のプレーから学び、いまや高校世代を代表する捕手になった。先輩たちの姿をみて必死に努力してきた選手たちには、メンタル面での強さがあるかもしれない」
⚫︎昨春のエースがトミー・ジョン手術
―昨夏にトミー・ジョン手術(じん帯再建手術)を行った佐藤龍月(昨春選抜優勝投手)が選抜のメンバーに入った。
「ピッチャーとしてはまだ投げられないが、バッティングセンスがあるのでメンバー入りを考えていた。紅白戦で結果を残していたし、昨春の経験値や存在感があるので選抜メンバーに登録した。投げるのが難しいので勝負所での代打起用を考えている」
―トミー・ジョン手術の経緯は?
「昨夏の群馬大会優勝後に左ひじの不調を訴えて検査することになった。本人、家族と相談して夏甲子園には帯同せずに早い時期にトミー・ジョン手術をすることになった。9月からリハビリに入って3月で7カ月目。いまは50%の状態でキャッチボール程度。全体的には順調に回復していると言える」
―トミー・ジョン手術についての考え方は?
「これまでにも在学中にトミー・ジョン手術をする選手もいたが、エースが手術をしたのは初めて。今は手術方法が確立されているので、リハビリを経過すれば投げられるようになる。早い時期に決断したことによって今年の夏に投げられる可能性が高い。佐藤の手術は、高校生のトミー・ジョン手術においてのモデルケースになるかもしれない」
⚫︎選抜は短期決戦なので初戦が重要
―今年の選抜では「連覇」が懸かっているが?
「連覇の可能性があるのはうちだけなのでチャンスがあれば狙っていく。連覇の力がないわけではないが、初戦の入りがすべて。短期決戦なので初戦で勢いに乗れるかが鍵だと思っている」
―昨春全国制覇の経験は活きるか?
「昨春を経験した加藤、石垣、佐藤たちが現地の雰囲気やスケジュール感を把握していることは強み。プレーするのは指導陣ではなく選手なので、グラウンド上で経験が活きてくると思う」
―新基準バット採用から丸1年が経過したが感触は?
「最初は戸惑いがあったが、今はホームランも普通に出るようになっているし『飛ばない』という印象はない。ただ、レベルの高いピッチャーとの対戦ではなかなか得点は奪えない。攻守の質が求められていると思う」
―3季連続の甲子園出場となっている。
「昨夏に優勝できたことが大きい。3季連続になっているがチームづくりは1年でも“あぐら”をかいてしまうと、それを取り戻すのに3年以上かかってしまう。謙虚な姿勢で高校野球に取り組むことが大切。勝つためには“走り”続けなければいけない」
―いまどき世代の選手たちの指導方法は?
「コロナ前は厳しく管理してきたが、いまは自由になってきている。選手寮では消灯時間はあるがスマホ使用も自由だし選手に任せている。学校生活面で注意することは稀にあるが、プレー面では叱ることはない。いまの選手はその方が力を発揮するし、みんなが自立していると感じる。選手がプレーしやすい雰囲気、環境を作ることが指導者の役割。選手ファーストの環境作りを心掛けている」
―大切にしている言葉は?
「2003年に中学野球部恩師から届いた年賀状に書かれていた『正々堂々』『公平公正』という言葉だ。監督1年目の私に、恩師がアドバイスを送ってくれた。あれから長い月日が経過しているが、私の心には『正々堂々』『公平公正』がずっと刻まれていて、指導、野球戦術の原点になっている。2024年春に全国制覇という目標を達成することができたが、この先も『正々堂々』『公平公正』を胸にグラウンドに立っていく」
【監督プロフィール】
1972年群馬県生まれ。前橋商−東北福祉大。大学卒業後、一般企業に就職し軟式野球でプレー。健大高崎共学化に伴い、2002年に野球部監督就任。創部10年目の2011年夏に甲子園初出場を果たすと、春夏計11回の甲子園出場。チームスローガンは「不如人和」(ふにょじんわ)。戦術スローガンは「機動破壊」。2024年選抜で悲願の全国制覇。