【星槎国際湘南 野球部】「それぞれのゴールテープを」#星槎国際湘南

神奈川球界が誇る名将、土屋恵三郎――。

桐蔭学園での30年間で計10回(春5回、夏5回)の甲子園出場を果たし、2015年から星槎国際湘南を率いて6年目を迎えた今、コロナ禍の最後の夏に向かう3年生たちに、熱いメッセージを送った。

2020年9月号掲載
(取材・三和直樹)

■1人の人間として大きく成長した

8月1日から始まる代替大会を前に「俺の体調は万全だよ」と切り出した土屋監督。

「今はできる練習をしっかりとやっているところ。でも、ここに来るまでは本当に大変だったね」と振り返る。

3月2日から全国一斉休校となり、同11日には春の選抜大会の中止が決定。

4月7日には緊急事態宣言が発令され、グラウンドでのチーム練習ができなくなった。

「とにかく野球云々ではなくて、まずは感染予防をしっかりすること。1人が感染するとみんなにうつる。そうなると大変だから」。

まずは手洗い、消毒の徹底。

全寮制の生活の中で、買い物が必要な際はスーパーが空いている時間にマスク姿でスクールバスを走らせた。

「例年にない戦いがあった。でも自粛期間もみんなでしっかりと対策して、みんなが決まりごとを守って過ごしてきた。うちの寮は個室なので密になるところが少ないということもあるけど、コロナに感染する以前に、風邪を引く生徒が1人も出なかったのは彼らの努力と成果だと思う」。

5月20日には夏の甲子園大会の中止も発表された。

「部員たちは泣いたよ。特にうちの子たちは純粋だからね。甲子園に行ける、行けないということではなくて、甲子園という目標に挑戦することすらできなくなったというのは、本当に残念だし、悔しい」。

だが、その中でも「兄弟愛を見ているようだった」と土屋監督は目を細める。

「練習はできなくても、寮生活の中で、先輩たちが1年生の面倒を本当によく見てくれた。普通、全寮生活を続けていると、どうしても1年生なんかがホームシックになったりするんだけど、それが今年は一切なかった。常に元気ハツラツ。部員同士がしっかりと支え合って、しっかりとトレーニングして、この4カ月の間にみんな10キロぐらい体重も増えて、強く、大きくなった。普段から礼儀作法から始まって野球以外のことを教えることが多いし、野球云々以前に親御さんたちから預かった大切な子どもたちを人として成長させることが目的。その意味でも、目に見えないコロナという敵との戦いの中で、部員たちは1人の人間として大きく成長したと思う」。

■最後まで「必笑野球」を

前例のない、試練の夏。プロ野球選手を含め、数々の教え子を社会に送り出してきた土屋監督は、今年の3年生たち、そして全国の高校球児たちに特別なエールを送る。

「俺としては全員を応援したい。今年は本当に大変な思いをした中で、それぞれが野球と向かい合ってきたと思う。まず感染に気をつけること。そして怪我をしないこと。その上で、高校最後の夏を完全燃焼してもらいたい。一人一人、目指すゴールは違うけど、その中で野球を楽しんで、自分自身のゴールテープを切ってもらいたい。支えてもらってきた女子マネージャーたちのことも忘れちゃいけない。男子部員たちは彼女たちに感謝して、女子マネージャーたちも、男子部員たちと同じようにゴールテープを切ってもらいたいね。そして将来、家庭を持ったりして、子どもたちに野球を教えることになった時に、『俺はあのコロナを乗り切ったんだ!』と胸を張って、誇らしく語れる大人になれればいいね。人生にはいろんなことがある。この経験を将来への糧にしてもらいたい。コロナを経験した今の高校3年生たちが、この先、『この代は本当に強い』と言われるような存在になってもらいたい」。

 “ウィズ・コロナ”の新様式の生活を求められている中、高校野球界も不透明な部分が残る。

だが、決して逃げることはしない。

全力で生徒たちと向き合い、「オーラのある男」を育てることが名将・土屋監督の目的だ。

 「今年の夏だけじゃなくて、秋以降もどうなるか分からない。指導者もいろんなことに気を遣わないといけないし、今まで以上に野球以外のことを教えて、部員たちに接して、育てていかないといけないと思う。褒める時は褒めて、怒る時は怒る。気持ちを出して、真剣に、全力で接しないといけない。その中で、部員たちにはオーラのある男になってもらいたい。卒業してからも教え子たちが活躍したり、頑張っている姿を見たり、他の人から褒められたりすると、俺は本当に嬉しいんだよ。特に今までにない敵と戦っている今年の3年生たちの中から将来、社会に出て大活躍する男がどんどん出てきて欲しいね」。

勝ち負け以外の部分に、土屋監督の教えの極意がある。

「でも俺は負けず嫌いだから練習試合でも負けたら頭に来る。必死になればなるほど勝ちたい」と笑うが、甲子園という形がなくとも、野球を楽しみ、グラウンドで必死に汗を流す過程に、必ず得るものがある。

この非常時だからこそ、全員が力を合わせること。そして土屋監督が目指す“必笑野球”が、そこにはある。

 「うちのチームには強い絆がある。こんな時だからこそみんなで明るく、力を合わせて、最後まで“必笑”で戦い抜いてもらいたい。勝ち負けじゃないところで、どんな形でもいいからゴールしてもらいたいし、俺自身が彼らのゴールを見届けたい。その時の彼らが、笑ってくれていたら最高だね」。

星槎国際高等学校

星槎国際高校湘南
【住所】神奈川県中郡大磯町国府本郷1805-2 
【創立】 2009年
【甲子園】 なし
北海道の本部を含めて全国に23のキャンパス、学習センターを持つ広域通信制高校の中の一つ。野球部は2011年創部。スポーツ専攻コースがあり、女子サッカー部が2019年に全国初優勝。女子バレー、陸上などがすでに関東、全国レベルで結果を残している。

Pocket

おすすめの記事