ダークホースから強豪へ
日々成長していく雑草軍団
神奈川のダークホースからワンランク上のチームへ進化を遂げる柏木学園。指揮官と選手の「情熱」と「信頼関係」がチーム進化の原動力だ。
[2021年1月号掲載]
■神奈川で勝つために
柏木学園では、上原幸太監督自らがバッティングピッチャーを務めている。
埼玉・鷲宮高時代に外野手として甲子園へ出場した経歴を持つ43歳の指揮官は、威力あるボールを次々と投げ込んでいく。
「そのコース、いつも打ててないぞ!」、「そのスイングじゃ当たらないよ!」。
マウンドからは、愛情たっぷりの言葉が飛ぶ。選手たちは、的を射たアドバイスを受けながら、必死に食らいついていく。柏木学園の練習は、体力的にも心理的にも厳しいという。選手たちは、それを理解した上で根来虎輝副将(2年=内野手)は「野球を通じて自分自身が成長できると思って柏木学園を選びました。上原監督はミスを叱るのではなく、消極的なプレーを指摘してくれます。神奈川で勝つためには選手自身が強くならなければいけないと思います」と汗をぬぐう。
■エースも4番も、中学時代は補欠
上原監督 は、神奈川県同様に私学強豪ひしめく埼玉県で、公立高校での甲子園出場を経験している。甲子園での1プレー1プレーが鮮明な記憶として残っているという。指揮官は、甲子園の経験を一つの財産として指導につなげている。徹底するのは、背伸びした野球ではなく、自分たちの特長を生かした戦い。指揮官は、選手の長所をパズルのように当てはめて、チームの最大値を探っていく。
上原監督は「公立、私立関係なく、まずは本気で挑戦することが大切。ただ、入学時のレベルでは戦えないので、2年3カ月の時間をかけてその差を縮めていく作業になる。うちは、中学時代は補欠だった選手が多い。それでも、長所をつぎはぎのように合わせていけば、戦えるチームになる。選手はものすごい速さで成長していくので、その過程がうれしいです」と話す。雑草たちは、柏木学園のグラウンドで根を張り、成長していく。
■指導は、愛情の裏返し
今季のチームは、エースでキャプテンの山口新月(2年=投手)が絶対的な軸となる。藤井大輝(2年=内野手)と根来の二遊間コンビが副将を務めている。チームは、この3人を核にしてバージョンアップを試みる。秋季大会は、県大会初戦となった2回戦で相洋と対戦した。その試合は、互いが序盤から得点を奪い合う壮絶な乱打戦。柏木学園は、9回表に5点を奪い勝ち越したが、その裏に追いつかれると延長10回で力尽きた。
上原監督 は「秋に負けたことは問題ではない。勝てなかったが選手たちは夏につながる戦いをみせてくれたと思う」と語った。結果ではなく選手の成長を求めた。新チームが、相洋と撃ち合いを演じたことは自信につながる。山口主将は「最後の粘りが足りずに勝ち切ることができなかったがチームに手応えは感じた」と振り返る。
オフシーズン、柏木学園のグラウンドには檄が飛ぶ。「心を鬼にして、厳しい指導を続けます。最後の夏に、選手たちに勝ってほしいから」(上原監督)。上原流の指導は、愛情の裏返し。指揮官の「情熱」と選手の「信頼」が、チームを強くする。