8年ぶりの夏初戦敗退からの再出発
太く、力強い、進化した「束」になる
文武両道を推し進めながら最激戦区・神奈川で存在感を示す“公立の雄”相模原。今夏の悔しさをバネにチームは大きく成長し、進化しようとしている。(取材・三和直樹)
■初戦負けから新たなチームへ
力を発揮できなかった。初回に5点を失って主導権を奪われると、7回無死満塁のチャンスで不運な併殺打。4強入りした2019年から2年が経った今夏、同じ相模原市の公立校・城山に3対10の7回コールド負けを喫し、夏8年ぶりの初戦敗退となった。
「練習量が足りなかった。(コロナ禍で)いろいろと工夫はしたけど、やっぱり量は必要だった」と佐相眞澄監督は悔しがる。だが、視線は前へ。すでに発足している新チームに「バッテリーがそのまま残った。早く負けたこともあって夏休みの間にしっかりと練習できた」と自信を見せている。
エースとして期待される小林理瑛(1年)に加え、菊地康介(2年)、近藤優樹(1年)と計算できる投手が顔を揃え、1年時から先発マスクを被る大崎陽太(2年)が主将&司令塔としてチーム全体に目を配る。1番・伊藤友祐(2年)から、2番・石川蒼(2年)、3番・高塚瑛一朗(2年)と続く打線も、秋の地区予選3試合で計32得点と爆発。「今年は仕上がりが早い。伸びしろもたくさんある」と佐相監督。引退した3年生は計13人と少なかったが、現2年生は29人。1年生は36人とさらに多く、激しい競争の中でチームは活気にあふれている。
■進化のための工夫と新兵器の数々
今夏に不足していたのは、守備力と打線の繋がり。新チーム発足直後からバント、走塁、そして守備練習に取り組み、佐相監督は「守りからリズムを作れるチームになってきた」と評価する。もちろん、これまで通り「打の県相」も継続。打撃練習用ネットを改良し、継ぎ目を最上部で縫い合わせて「ライナー性の打球」への意識を徹底。打撃ゲージの横には常に録画用スマートフォンを設置し、選手たちが後からオンライン上で自由に確認できるシステムも構築した。
さらにブルペンには、投球の回転数や回転軸が計測できるトラッキングシステム「ラプソード」の機材を導入。「数値的な目標ができるのは大きい」と語る佐相監督は、「ボールの回転数を意識して練習することで、実際に回転数も上がって、質の高いストレートが投げられるようになってきた」と効果を実感している。
■結果を追い求める
今年は恒例だった夏合宿を自粛し、校内のグラウンドで“地に足をつけて”汗を流した。その間、練習試合も20試合近く実施。感染症対策に気を配りながらも多くの実戦を重ね、前チームに不足していた「量」の部分は克服しつつある。あとは「どれだけチームが一つになれるか」だ。
「ベスト4に甲子園中止、そして初戦敗退。このチームの選手たちは、うちの良いところ悪いところも全部見ている。その上で自分たちがどうするか。自分たちの野球をどう表現できるか。このチームには『すべては結果だよ』と言っている。結果を追い求めていきたい」
63歳となった指揮官が追い求めるのは、今夏に1度も味わえなかった勝利の瞬間、そして聖地行きの切符だ。2人目の孫誕生に目尻を下げる佐相監督。グラウンドではひと言、「勝ちたい!」と言う。悔しさをバネに進化したチームは今、スローガン「束になる」の如く、投打ともに分厚い戦力を整え、再び旋風を巻き起こす予感を漂わせている。