【指揮官インタビュー】文星芸大附〈栃木〉高根澤 力監督

【指揮官インタビュー】
2023年夏に16年ぶりの甲子園出場
文星芸大附〈栃木〉高根澤 力監督

「一つの山を登れば、また次の山が見えてくる」

2023年夏に16年ぶりの甲子園出場を成し遂げた文星芸大附。栃木大会決勝で作新学院に6対5でサヨナラ勝ちして頂点に立った。2018年から指揮を執り5度目の夏(2020年はコロナ禍の交流戦)で甲子園切符をつかんだOB指揮官・高根澤力監督に聞く。

 

春大会は「褒める」ことに徹した

 

―甲子園出場から約3カ月、あの時間を振り返ると?
「久しぶりの甲子園だったので本当に忙しかったのですが、充実していたという印象です。選手たちの身体的なバランスも良く、力のある世代だったので、なんとか結果を導いてあげたいと思っていました」

―春の準優勝からの夏制覇になりました。
「良い冬を過ごすことができまして選手たちには『春に優勝して勢いをつけよう』と話して、チームのスタートを切りました。オープン戦から調子が良くて県大会もしっかりと勝ち上がっていきました。ただ、春決勝・作新学院戦だけは力を出し切ることができませんでした。決勝戦独特のプレッシャーに打ち克つことが課題として残りました」

―新たな取り組みはあったのでしょうか?
「春の大会期間にたくさん褒めてあげました。それまでは私がプレッシャーを掛けすぎたと感じていて、選手の力を引き出すにはどうすればいいかと考えていました。実験的な取り組みだったのですが、褒めたことによって選手が重圧から解放されたのかもしれません。褒めたことがすべてではないですが、選手が伸び伸びとプレーするようになりました」

―夏大会まで褒め続けたのでしょうか?
「春の関東大会でチームにほころびが出始めてしまったので、もう一度、締め直しました。高校生なので、『褒める』と『締める』を使い分けることがいいのかなと感じました。春に褒めたことによって選手たちの心境をコントロールすることができ、夏につながっていきました」 選手が甲子園に連れていってくれた

―夏大会前はどんな準備をしたのでしょうか?
「今夏のチームに関しては完成度が高かったので、大会をベストで迎えるためのコンディションづくりに重点を置きました。最後は、確認作業のみで追い込むことはしませんでした。あくまでもベストで試合に臨むことだけを考えました」

―栃木大会での選手たちはいかがでしたか。
「夏の県大会では選手たちに自信が満ち溢れているように感じました。決勝戦では再び作新学院と対戦して5対1で迎えた9回表に同点に追いつかれたのですが、選手たちはまったく動じることなく戦い、9回裏にサヨナラ勝利を収めました。私自身は難しくなったと感じたのですが、選手たちの姿が心強かったです。選手たちが私を甲子園に連れていってくれました。選手たちには本当に感謝しています」

―監督として初の甲子園切符をつかんだ心境は?
「私自身がOBなので責任を感じていたのですが、甲子園に行くことができてホッとしたというのが正直なところです。監督の仕事はグラウンドだけではなくチームの土台作りもありますので、簡単な作業ではありませんでした。選手たちに恵まれたことに感謝しています」

―甲子園の景色は?
「現役時代の1991年に春・夏の甲子園出場を経験しましたが、あのときよりも甲子園は狭く見えました。ただ、スタンドを含めた奥深さと雰囲気は当時のままで『甲子園に戻ってきた』という感覚でした。指導者になってからは遠い場所だったので、感慨深かったです。高校生の目標になる場所ですし、選手たちにあの場所でプレーさせてあげたいとあらためて思いました」

甲子園はゴールではなくスタート

―甲子園での時間はどう感じましたか?
「8月1日に甲子園へ出発して、11日が2回戦・宮崎学園戦、16日が3回戦・八戸学院光星戦で最終的に18日まで滞在しました。お盆を甲子園で過ごすという貴重な経験をさせてもらいました。選手たちは知らない場所での長期滞在に慣れていないので体調管理が難しかったです。それを含めて素晴らしい経験になりました」

―甲子園を終えて?
「生徒たちを甲子園へ連れていくことが私の仕事だと考えていましたので、みんなで甲子園へ行くことができて良かったです。ただ、それはゴールではなくスタートかもしれません。継続して甲子園に行くチームになっていきたいと思います」

―チャレンジは続きます。
「高校野球は毎年選手が入れ替わり、1からのチームづくりになります。2023年のマネジメントがそのまま通用するとは限りません。その中で、次世代の選手たちに甲子園の経験を伝えていくことが使命になります。『甲子園に行って良かった』で終わりにするのではなく、タスキをつないでいきたい。一つの山を登ると、次の山が見えてくると言いますが、そのとおりだと感じました。2024年夏も選手とともに再び甲子園へ行って、勝ち上がれるチームになっていきたいと考えています」

 

PROFILE
高根澤力(たかねざわ つとむ) 1973年栃木県生まれ。宇都宮学園(現文星芸大附)―日大―三菱ふそう川崎。2006年に現役引退し、文星芸大附職員となる。2016年から文星芸大附コーチ。2018年秋に監督就任。2023年夏、学校16年ぶりの甲子園。指揮官として初の甲子園出場を果たした。現役時代は捕手。

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