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指導歴40年、春夏計10度の甲子園出場
「失敗を力に変えられる野球人を育てたい」
星槎国際湘南の土屋恵三郎監督(71歳)が指導歴40年を迎えた。1982年からの桐蔭学園指揮官時代に春夏計10度の甲子園出場を果たし、2015年から星槎国際湘南に戦いの場を移して指導に情熱を傾ける。野球に人生を捧げた指揮官の言葉を伝える。
⚫︎情熱を持って生徒たちと向き合うだけ
―指導歴40年を迎えた心境は?
「桐蔭学園、法政大から社会人・三菱自動車川崎に進み、現役引退時の28歳で母校・桐蔭学園の監督になった。桐蔭で30年指導して、2015年1月に星槎国際高校湘南へ来て10年経った。いまは野球への恩返しだと思って、生徒たちと向き合っている」
―40年間の教え子たちに伝えたいことは?
「教え子たちは延べ1000人を超えていると思うが、一人ひとりを覚えているよ。高校野球は筋書きのないドラマ。レギュラー、控えに関係なく、全員がそれぞれのドラマの主人公だ。高校野球を通じて彼らの人生に携われたことを幸せに思う」
―印象に残っていることは?
「たくさんありすぎて答えられないが、2006年の春県大会の関東大会出場権がかかったゲームで、間違えて代打を送ってしまったことが失敗談として記憶に残っている。これは今だから言えること。プロ注目選手だった3番・井領雅貴のときに、混乱して代打を告げてしまった。代わりに出たのは、長男・亜紀彦。そうしたら息子がサヨナラホームランを放ってくれた。私の失敗を選手たちがカバーしてくれた」
―自身の指導40年を振り返って?
「指導にゴールはない。絶対に勝てる方法はなく、毎日、情熱を持って、生徒たちと向き合うだけ。それに尽きる。いまも朝4時半に起きて5時20分には寮に来て朝練を見守っている。私は生まれも育ちも神奈川で、ずっと神奈川のアマチュア野球でプレーしてきた。神奈川の野球に対して感謝しかない」
⚫︎高校野球が終わったあとが本当の戦いの始まり
―グラウンドに到着してからの日課は?
「トイレ掃除。朝は私がトイレを磨いている。帰りは最高学年の選手たちが掃除をしている。トイレは野球部の鏡。大事なところは、自分が担当している」
―どんな考えが必要か?
「『失敗(しっぱい)と書いて、成長(せいちょう)と読む』。失敗を恐れずにチャレンジしていくことが大切。失敗から学ぶことで成長できるのは間違いない。いまの子どもたちは、失敗したあと言い訳をする子も多い。ミスを自分自身で受け止めて、自己評価できる生徒は伸びていく。そういう野球人を育てていきたい」
⚫︎子どもたちからエネルギーをもらっている
―両親への感謝を、生徒たちに常に持たせている印象だ。
「仲間のため、学校のためにプレーするのは当たり前だが、それ以前に保護者への感謝を忘れてはいけない。保護者は学費を払って、野球部に生徒を預けてくれる。私は生徒たちの心技体を磨き上げて、保護者のもとへ返したい。指導者として、お金以上の価値を保護者に届けてあげたい。勝負も重要だが、親孝行が一番大切だ」
―今どき世代の子どもたちとの接し方は?
「褒めるべきことはしっかりと褒めるし、叱るべきことはしっかりと叱っている。ときには親と一緒に来てもらうこともある、いまの時代は、本気で叱ってくれる人が少なくなっている。叱るのは、愛情の裏返しだ。昔と変わったのは叱ったあとの夜に、生徒にLINEを送ってフォローしていることだ(笑)」
―土屋監督自身がLINEを打つのか?
「もちろんだ。生徒たちは、LINEだと素直に言葉を返してくることも多い。プレーの動画も選手たちに送ることが多いが、必ず親にも転送してくれと伝えている。どんな動画でも、子どもの動画は親の宝物だ。指導のやり方は変わっても、指導者としての気持ちは40年前とまったく変わっていない。いつの時代も子どもたちからエネルギーをもらっている」
―新基準バットの採用などで野球に変化はあるか?
「ホームランこそ少なくなっているが、技術のあるバッターは、鋭い打球を放っている。新基準バットの採用から2年経ち慣れてきているので、去年とは違う戦いになるかもしれない。ただ、どんなに攻撃的な野球をしても細部の重要性は変わらない。昨秋は横浜が神宮大会で優勝したが、彼らはバントなど当たり前のことをきっちりとやっていた。勝負には思い切ったギャンブルも大事だが、そのためには準備が必要。練習がすべてだ」
―生徒たちに伝えたいことは?
「高校野球のユニホームを脱いだらレギュラーや控えは関係ない。高校野球でスポットライトが当たらなかった控え選手たちが、それぞれの人生で頑張っているのをみると、やはり嬉しい。高校野球が終わったあとが本当の戦いだと伝えている。高校野球は、人生という山を登るための“道具”だ。私の指導が生徒たちの力になってくれるとすれば、監督としては、それが一番ありがたい」
【監督PROFILE】
土屋 恵三郎(つちや けいざぶろう)
1953年11月22日生まれ。神奈川県出身。桐蔭学園−法政大−三菱自動車川崎。高校3年時に甲子園初出場初優勝。大学時代は第3・4回日米大学野球選手権大会に出場、第3回の第5戦ではサヨナラ本塁打を放つ。1982年に桐蔭学園監督に就任し、2013年までの31年間で甲子園に計10回出場(春5回、夏5回)。高橋由伸ら多くのプロ選手を育てた。2014年4月に星槎グループのスポーツ振興室長となり、2015年1月から星槎国際高校湘南の野球部監督を務める。趣味はウクレレ。