1981年の東東京大会で準優勝
新体制で目指す人間力強化、そして甲子園
1981年の東東京大会で準優勝の実績を持つ伝統校・豊南。復活を期すチームは2019年夏から、新指揮官を迎えて選手の心と体を鍛えている。環境も再整備したチームは東東京の勢力図を変える可能性を秘めている。
■野球への恩返し
変化の胎動と意志が強く感じられる。1981年の東東京大会で準優勝となった豊南。栄光を持つチームだが過去15年では、2011年夏の東東京4回戦が最高位。2018、2019年夏は3回戦へ進出したが、旋風を巻き起こすまでは至らなかった。
学校側は、チーム再生のために、元早稲田実エースで社会人野球・日本石油(現ENEOS)で活躍、現役引退後に副部長を務めた弓田鋭彦氏を招へい。定年までの人生60年中約40年間野球に携わった野球人にチームを託した。第二の人生の場として高校野球の現場を選んだ弓田氏は、龍谷大平安高から富士大でプレーし、元武相コーチの小林周平コーチを参謀に、東東京へ参戦した。弓田監督は「私は野球によって育ててもらった。野球への恩返しの意味を込めて、指導を引き受けさせてもらった」と、豊南の選手たちと向き合う。早実時代の2学年後輩にあたる早実・和泉実監督と親交があることから、多くの助言をもらっているという。
■心と体の成長
弓田監督がチームを引き継いだときの部員数は2年生8人、1年生3人の11人。初陣となった秋季大会一次予選は1回戦で立志舎に勝利し、予選決勝へ進んだが創価に0対7で敗れた。その秋、練習場の荒川河川敷が浸水被害に見舞われたが、約1年間かけてグラウンドを再整備。土手の脇に管理棟や補助グラウンドも設置して環境を整えた。
弓田監督の座右の銘は「胆大心小」。気持ちは大きく、気配りを忘れない。この言葉を軸に、選手たちの心と体の成長を促していった。指揮官は「選手たちに力がないわけでない。一生懸命に努力しているが、そのやり方が分かっていなかった。一つひとつを丁寧に教えていくことでそれぞれが成長してくれている。個人の成長がチームの結果につながっていくはず」と見守る。
■50人を超える大所帯
2020年春には22人の選手が加わったが、上級生は1人だけになった。いまは唯一の3年生である石飛佑真主将(3年=捕手)がチームをまとめている。石飛主将は「3年生が1人だけなので大変ですが、2年生と協力しながらみんなで努力をしています。弓田監督の指導によって技術だけではなく人としても成長できています」と話す。
今春には、26人の新1年生が加わり、女子マネージャーを含めると50人を超える大所帯になった。弓田監督は「これまでは競争が少なかったが、これからは競争が激しくなる。ただ、チームは選手だけでは成り立たない。それぞれがチームにおいて自分の役割を見つけ、実践していくことが大切だ。それができるチームは強くなる」と話す。豊南は、目に見えないチカラを育み、夏へ向かう。その先に甲子園がある。