「人間的成長なくして技術の進歩なし」
2018年秋の母校・桐生第一監督就任
選抜切符獲得、コロナ禍、夏大会優勝・・・激動の時間
2018年秋にコーチから監督に就任、伝統校である母校を率いることになった。
チームは2019年秋の県大会で優勝し、関東大会ベスト4で選抜切符を獲得。
コロナ禍で選抜が中止となる中で、夏の独自県大会で優勝。
夏大会後は、選抜の代替試合となる甲子園交流戦に出場した。
就任わずかで聖地の土を踏んだ指揮官が、激動の2年間を振り返る。
■伝統校を引き継ぐ重責
―監督就任から2年が経過しました。
終わってみるとあっという間の印象ですが、この2年間は、本当にいろいろなことがあり、多くを経験させてもらいました。
まずは選手に感謝したいと思います。
―名門を引き継ぐ形になりました。
伝統の重みについては、途轍(とてつ)もないものがあります。
それは、このポジションに就いて初めて感じたことでした。
コーチ時代とは違った、プレッシャーを日々感じながら1日1日を過ごしています。
―監督の役割は?
伝統あるチームを率いる以上、結果が求められると考えています。
高校野球という場で学ぶ選手にとっては結果がすべてではありませんが、私たち指導者の評価は結果になると思います。
その意味では、前任の福田監督の責任の重さがわかりました。
■就任2年目で甲子園切符獲得
―過去5大会ですべて4強以上。2019-2020年は秋・夏連覇で県内無敗となっています。
結果を見れば、良い成績ですが、私自身としては、勝てている感覚はまだないです。
一戦一戦が本当に必死でした。
秋・夏連覇はいろいろな巡り合わせや運も味方してくれて、勝たせてもらったと考えています。
―就任2年目で、選抜切符をつかみました。
私自身、選手時代から甲子園に縁がなかったので不安はもちろんありました。
私は、常に最悪の状況を想定しながら物事を進めていくタイプですので、すべての不安を潰して準備をしていきました。
秋の県大会で優勝できて、地元開催の関東大会で、1回勝てばベスト4に入れるスーパーシードとなりました。
最大のチャンスをつかむべく、選手と自分自身にプレッシャーをかけました。
―どのような気持ちで関東大会へ挑んだのでしょうか?
『ここで勝てなかったら一生甲子園に行けないかもしれない。勝つと負けるのとでは、大きな違いだ』と。
結果的に選抜出場が決まりましたが、2018年秋に突然、監督を引き受ける形になった状況で福田前監督が築いてくれたものがあったからこその結果だと思いました。
桐生第一の底力だと考えています。
―ここ数年前橋育英、健大高崎の「2強時代」と言われた中で意地をみせた形となりました。
最近は、前橋育英さん、健大高崎さんの2校を倒さなければ甲子園に行けない状況が続いていました。
コーチ時代から、その2校に勝つことが目標の一つでもありましたが、今年は2校に勝てましたので、3年生たちの努力が素晴らしかったと思います。
―選抜出場予定校による甲子園交流戦で聖地の土を踏みました。
桐生第一の1年生のときに甲子園へ応援に行って、コーチ時代には2度、甲子園のアルプススタンドに行きました。
グラウンドに立つのは初めてでしたが、甲子園球場の独特な雰囲気を味わうことができました。
実力校・明石商との交流試合(2対3)となりましたが、貴重な経験をさせてもらいました。
■個人の成長をチームに束ねる
―指導方針は?
実際にプレーするのは選手たちなので、選手たちの意見や考えに耳を傾けるようにしています。
私の助言が、すべての選手に当てはまるとは考えていませんので、選手とコミュニケーションを図りながら、適した方法を一緒に考えています。
選手自身に考えがあるのであれば、それも認めています。
ただ、結果が出なければ自分自身で受け止めなければなりません。
自由と責任を理解させた上で、選択させています。
そして個人の成長をチームとしてまとめていくことが指導者の仕事だと考えています。
―育成方針は?
時代や選手の資質が変わっている中で試行錯誤しているというのが実情です。
その状況で、選手たちには最善の環境を用意してあげたいと思います。
甘やかすわけではなく、環境を整えた上で選手たちの自覚と責任を要求しています。
―具体的な環境整備とは?
いまは外部のジムと提携して選手たちが利用できるようにしたり、パーソナルトレーナーに面倒をみてもらったりするケースもあります。
学校だけでは機材や人材に限度があります。
学校環境だけではなく地域の力を借りてのチーム強化に取り組んでいます。
―大事にしている言葉はありますか?
『人間的成長なくして技術の進歩なし』という、野村克也さん(元ヤクルト監督)の言葉です。
野球はAI(人工知能)ではなく、人が動くスポーツです。
高校生は心の変化によって、プレーが左右されてしまいます。
だからこそ、心の成長、人間的な成長が必要だと考えています。
選手たちには、技術以前に、この話をしています。
―技術より心の成長が大切なのでしょうか?
そうだと思います。
技術はすぐに上達しませんが、挨拶、目配り、気配り・・・これらは意識を持つことですぐにできるようになります。
人間的な成長が見られる選手は、必ず技術がついてくると感じています。
今年の3年生は、人間的な成長が伴ってきたことで結果につながったと思っています。
この1年間の価値ある経験を、チームのさらなる成長につなげていきたいと考えています。
【監督プロフィール】
桐生第一高校
今泉壮介 監督
1979年群馬県生まれ
桐生第一―関東学園大―オール足利。2012年から桐生第一コーチ、2018年秋から監督。
2019年秋県大会優勝、関東大会4強で選抜出場権獲得。2020年夏の群馬独自大会で優勝。