元常葉菊川指揮官が情熱指導
野球を楽しむ先に甲子園がある
御殿場西は、2016年秋から常葉菊川で通算6回の甲子園出場経験を持つ名将が指揮を執る。選手たちは野球を真剣に楽しみながら、1992年春以来2度目の甲子園を目指す。 (取材・栗山司)
■2016年秋に名将が就任
大きくそびえ立つ富士山を横手に御殿場西の校門をくぐると、野球部員たちの威勢のいい声が聞こえてきた。
グラウンドでは森下知幸監督がノックを打ち、ユニホームを泥だらけにしながら選手が必死になってボールを追いかけている。 森下監督は常葉菊川の監督として一時代を築いた。2007年春の全国優勝を含め、通算6回の甲子園出場。1番から9番まで豪快にバットを振り、バントはなし。「フルスイング打線」を全国に轟かせた。その一方で守備力の高さも際立った。その根底にあるのが、森下監督によるノックだ。ノッカーと選手が一体となり、グラウンドが熱気に包まれる。
2016年秋に御殿場西の監督に就任した森下監督。新天地でも「森下イズム」が浸透し、2018年秋には県優勝を果たし、東海大会に出場した。 昨秋も東部地区2位で県大会出場。投手は右の市村倖大(新3年)、左の藁科優斗(新2年)と揃い、野手陣も遊撃手の髙林伶主将(新3年)を中心に完成度が高かった。しかし、初戦で常葉大菊川に敗退(2対6)。主将の髙林は「実力はあったと思いますが、自分たちの力を発揮できなかった」と振り返る。
■好きな野球をもっと好きに
秋の大会以降、チームが掲げたテーマは主体性だ。どんな場面でも、指示を待つのではなく、自ら考えて行動する。その意図を森下監督が語る。「どこかに試合で負けたくないという考えが出てきてしまう。それを取り除いて、やってきたことを精いっぱい出し切る野球がしたい。そのためには、もっと選手たちの発想の中で毎日を過ごしていくことが大事だと思った」
秋の常葉大菊川戦でも、チャンスの場面で消極的になるなど、思い切ってプレーできない部分があった。森下監督が続ける。「チャンスになると、何とかしなければっていう気持ちが先に出てしまう。そうではなく『よし、来た来た』っていうポジティブな感覚になってほしい。勝ち負けに捉われることなく、好きな野球をもっと好きになるように練習する。そうすれば、必然的に甲子園も近づくのではないかと考えている」
■甲子園1勝が目標
取材日、午後の練習では紅白戦が行われた。3チームに分かれ、部員全員が出場。メンバーを選手だけで決めることはもちろん、「塁に出たら全部走ろう」など、テーマも自分たちで作る。森下監督は「やる気満々で選手たちがプレーするにはどうしたらいいか。私たちは応援団でいいと思っている」と試合を見ながら盛り上げ役に徹する。
ひと冬で技術はもちろん、野球本来の楽しさを身につけた御殿場西ナイン。チームを代表し、髙林はこう誓う。「部員全員が認め合い、夏は甲子園に行って1勝します」 名将が就任し、今年で5年目。選手の力を最大限に発揮させる「主体性」という新たなキーワードで殻を破る。