指導歴45年以上、2012年西東京4強進出
「悩み続けて45年。だから今も挑戦する」
東大和、府中工などで指導し2009年から片倉で指揮を執る宮本秀樹監督。大学時代の母校学生監督歴を含めると指導歴45年以上という。長きにわたりグラウンドに立ち続けてきた指揮官に高校野球の真髄(しんずい)を聞いた。
⚫︎指導歴45年、人生の2/3以上がグラウンド
―現在67歳と聞いているが人生の2/3以上を野球指導に捧げている。
「捧げたという感覚はまったくない。毎年、目の前の選手たちと悪戦苦闘していたら45年が経っていたという感じ。それでも振り返れば、教員になった昭和56年(1981年)とは高校野球を取り巻く環境が大きく変わったと感じることもある」
―何が変わったのか?
「それを一言で言うのは難しい。社会や人の価値観も変わってきているのだから高校野球だけが昔のままのはずがない。指導法や丸刈り頭なども見直されているが、継承すべき文化もある。私自身は社会の変化と高校野球の現場の意識の変化にはタイムラグがあると考えていて、今はそれに困惑している時期かもしれない」
―毎年の新しい学びがあるのか?
「学びはもちろんあるが、それに伴う悩みのほうが多い。この年齢になっても何が正しいのか分からないことが指導の魅力であり難しさだと思う。私には『あるべき高校野球』へのこだわりがなかったから、ヌエ(伝説上の生き物)のように、ここまで渡り歩いて来られたのかもしれない」
⚫︎「指導」とは何かの前に「指導」の意味を考える
―高校野球指導で意識していることは?
「世間一般的な高校野球のイメージや常識がある。常識とは時代と共に変わるもの。常に自分の中には私が“ふたり”いて、『本当にこれでいいのか?』と議論している。『アンビバレント』(相対する疑問で葛藤する心理)の状態だから、いつも揺れ動いている」
―指導人生で印象に残っている試合は?
「失敗した試合ばかりが思い浮かんでくるが、良い試合で言えばベスト4進出を果たした2012年夏4回戦の東海大菅生戦。先発投手を3回に入った直後に替えて、2番手がそのまま耐えて3対2で勝ち切った。エースのストレートが相手打線に合っている気がしたので直感で替えたが、それが奏功した。長く指揮を執っているとそういう試合も稀にあるが、多くの試合は反省が残っている」
―今は「自主性」という言葉が多く聞こえるが?
「メディアから『自主性重視ですか?規律重視ですか?』という質問を受けたが、二者択一で言い切れる問題ではないと思う。野球には一定の規律が必要で、その中で選手が考え判断していく。『選手に考えさせて…』という話も聞くが、考え“させる”のではあれば使役である。言葉に翻弄されたくはない」
―著書「高校野球へようこそ」では「指導」という言葉への疑問を提唱していた。
「野球指導、勉強指導、生徒指導、服装指導…学校には指導があふれている。指導を辞書で調べると『ある目的に向かって教え導くこと』とあるが、この言葉によって、いまの方向が正しいのかを考えなくなってしまう危惧がある」
⚫︎常識を疑いながら『徹底』と『適当』を柔軟に
―丸刈り頭についてはどう考えているのか?
「最近では私立強豪校も脱・丸刈りが増えているが、何十年間も議論されてきた“高校野球らしさの象徴”だ。野球に懸ける気持ちの表れとして見なされてきたもの。私としてはずっと悩んできたので、(丸刈りをやめることは)時代に迎合した気がして釈然としない気持ちだ」
―選手たちへ伝えたいことは?
「常識を疑う姿勢を持った上で、目の前のことに集中し目標に向けてひたすら頑張ってほしい。何事もあきらめないことだ。ただ、その上でダメだと思ったら別の道へ進む柔軟な考えを持ってほしい。そして仲間の個性を認める寛容の精神も忘れないでほしい。『徹底』と『適当』の間を行ったり来たりすることも大切だと思う」
―片倉というチームを『片倉ワールド』と表現している。
「10数年前に生徒が『片倉ワールド』とか『宮本ワールド』というフレーズを使っているのを聞いて、いい言葉だなと思った。彼らにとって居心地の良い世界だったようで、その中心にいるガキ大将が私だと思っていたようだ。その頃の数年間、私の誕生日には生徒たちがケーキを用意してくれていた。練習中に厳しく叱ったときもあったが、そのあとでも、生徒たちは笑顔でケーキを持ってきてハッピーバースデーを歌ってくれた。そんな関係も良かったなと思う」

PROFILE
宮本秀樹(みやもと ひでき)
1957年東京都生まれ。東京学芸大附―早稲田大。高校時代は投手。大学在学中から母校・学芸大附で学生コーチ。大学卒業後に都教員となり野津田、東大和、府中工で指導。2009年から片倉を指揮し2012年西東京ベスト4進出。2018年に育成功労賞受賞。現在は部活動指導員。社会科(世界史)教員。
著書
「高校野球へようこそ
〜都立高校野球部指導者の記憶と実践〜」(柘植書房新社)
