楽しさを犠牲にしない野球部へ
ICT活用による新しい高校野球のカタチ
ICT活用、フレキシブルタイム制などを導入し高校野球の新境地を目指す北区の桜丘。野球を楽しむチームは、成長の先にある「勝利」を目指す。
■2004年に男女共学化
新しい高校野球のカタチを、選手たち自らで考えている。北区に位置する桜丘は2004年に「桜丘女子」という女子校が、「桜丘」へ校名変更となり男女共学へ移行、野球部が誕生した。普段は学校敷地内のテニスコート2面ほどのスペースで練習しているチームは「勝つために楽しさを犠牲にしない」をテーマに、楽しみながら野球に向き合う。
チームを率いるのは、OB指揮官・中野優監督。現役時代は、エースとして2007年東東京大会開幕試合で神宮のマウンドに立っている。大学へ進学と同時に学生コーチとして指導の道へ、大学2年生のときに監督となった。2007年の球児が、その2年後の2009年に指揮を執るという異例の指導スタートとなった。
■入部したくなる野球部
新規チームを任されることになった中野監督は、自身の現役時代さながらに厳しい指導を追求。桜丘は新規校のため「日大桜丘」や愛知の「桜丘」と間違えられたりした。「桜丘」の認知度を上げるためには、厳しい練習をして勝つしかないと考えた。当時は、それが正解だと思っていた。しかし、ハードな練習、高校野球の“しきたり”についてこられない選手が続出、野球から離れてしまう生徒もいた。
若き指揮官は、退部届けを出した生徒たちに理由を聞いた。
「練習が厳しすぎます」「勝てないから嫌になりました」。
野球が好きで入部してきた選手たちが、野球を嫌いになっていた。これではいけないと感じた。中野監督は4年前から学校の生徒募集担当となったが、それが転機となった。野球部の中学生たちと話すと、「坊主頭にするのが嫌です」「練習が厳しいし、練習時間も長すぎます」「上下関係が厳しそう」などという声を聞いた。指揮官は「野球が好きなのに、高校野球が敬遠されてしまっていました。生徒たちが、やりたい野球を実現し、入部したくなる野球部を作らなければいけないと思いました」と話す。
■フレキシブルタイム制
高校野球の主役は、監督ではなく選手たち。プレーヤーズファーストの野球部へと方向転換を図ると、野球の常識に捉われないスタイルを模索していった。
グラウンドが使えない曜日、時間は、選手がメニューを決める「フレキシブルタイム制」を採用し、選手たちが自ら時間や練習内容を決めて個人練習に励む。その日の活動はLINEなどで報告する。選手たちは、学校の許可を取った上で校舎の階段でトレーニングを行ったり、廊下で連係プレーの確認などをし始めたりしたという。中野監督は答えを与えるのではなく、「なぜ?」「どうして?」「どう思っているのか?」「どうするべきなのか?」と問い続けることで選手の自主性を刺激していった。
■ICT活用で意欲向上
ICTの活用も、練習に欠かせない要素だ。桜丘では、生徒1人に1台のタブレットを支給しているため、それを活用して、それぞれのメニューを共有している。また、スイングやピッチングなどを動画撮影して課題克服に励む。中野監督自らが開発した野球ソフトを利用してデータ収集。あいまいな指導ではなく、データに基づく指導を心掛けていった。猛暑の夏は、暑さ対策のため長ズボンのユニフォームではなく半袖、短パンでトレーニング。常識に捉われないスタイルで野球と向き合っている。
中野監督は「甲子園に出なくても、甲子園以上に輝ける人材になってほしい。“勝ち”以上の“価値”があることを選手に伝えていきたい」と語る。桜丘は、独自のスタイルで高校野球にイノベーションを起こしていく。