2013年全国制覇時を彷彿とさせる雰囲気。
須永主将ら3年生、代替試合へ真剣勝負
今年の前橋育英は燃えていた。
選抜切符を逃した悔しさを糧に切磋琢磨したチームは、2013年全国制覇時を彷彿とさせる雰囲気を醸し出していた。
5年連続夏甲子園を狙った3年生たちは、そのタスクを後輩たちに託して最後の代替大会へ挑む。
2020年7月号掲載
■ 関東大会で選抜切符つかめず
このチームには強い覚悟があった。
先輩たちから引き継いだ4年連続甲子園出場のタスキ。
5年連続の聖地へ目指すチームは、須永武志主将(3年=捕手)を軸に新たなスタートを切った。
昨秋大会の準決勝で宿敵・健大高崎と対峙した前橋育英は、左腕・菊池樂(現2年)と武藤翔也(3年)の無失点リレーで5対0と完勝。
決勝では桐生第一に敗れたものの群馬2位で関東大会出場権をつかんだ。
選抜切符を狙って関東大会へ挑んだが初戦で習志野に屈して、春甲子園の道は途絶えた。
選手たちの心に火をつけたのは、桐生第一と健大高崎が選抜切符を得たこと。
健大高崎は関東大会で優勝し、明治神宮大会で準優勝を果たした。
■ 王者・育英のプライド
4年連続甲子園出場中の“群馬の盟主”のプライドは、傷ついた。
荒井直樹監督は「抽選や組み合わせに関係なく、秋は力がなかったから関東大会で負けただけ」と敗戦を受け止めた。
秋関東大会の敗戦を経て、チームは変わった。
練習場には、選手たちの声が目一杯に響き、学年枠を超えた競争が始まった。
選手たちは「春大会優勝、夏甲子園」を目標に、心技体を鍛え上げた。
だが、新型コロナウイルス感染拡大によって、高校野球全体の雲行きが怪しくなっていった。
春の選抜が中止となり、春大会の開催も断念された。
3月から学校も休校となる中で、選手たちは自宅でのトレーニングを続けた。
春休みに一度は練習再開したが、4月に非常事態宣言が発令されて、再び活動は休止となった。
■ 夏中止決定で、選手は涙
荒井監督は、選手とLINEでコミュニケーションを図った。
野手にはトレーニングメニューを送り、アドバイスを伝えた。
投手陣には、それぞれにピッチング動画を送ってもらい、フォームのチェックを行った。
また、野球ノートもLINEで実施。
選手たちの声にマンツーマン指導で応えていった。
休校中もそれぞれの環境でトレーニングを継続した選手たちは、確実に成長していた。
しかしながら、5月20日、夏大会の中止が決定した。
指揮官は同日の夜に、3年生全員に電話で連絡した。
選手たちの中にはその事実を受け止められずに泣き出す者もいたという。
■ 今年の努力は人生の“お守り”
今年のチームは、秋の屈辱を糧に大きな進化を遂げていた。
将来有望の大型捕手・須永主将のプレースケールはアップし、俊足センターの高橋駿(3年)も迫力が増した。
投手陣は2年生左腕・菊池を軸に、3年生の信澤太陽、武藤翔也らも力を高めていた。
荒井監督は「今年のチームは、自分たちの弱さを理解し、全員で切磋琢磨する力があった。
チームの雰囲気は、全国制覇した2013年に似ていて、大きな期待をかけていただけに非常に残念です。
ただ、選手たちはこんな状況でもしっかり自主練習をして成長していった。
甲子園はなくなってしまったが、これまでの努力は無駄ではなく、これからの人生の“お守り”になると思う」とグラウンドを見つめる。
6月に練習を再スタートしたチームだが、グラウンドには秋・冬以上の活気があった。
甲子園という目標がなくなっても、チーム、そして選手たちは強くなれる。
前橋育英高等学校
【学校紹介】
住 所:群馬県前橋市朝日が丘町13
創 立:1963年
甲子園:7回(春2回・夏5回)
野球部は、高橋光成(西武)を擁した2013年に夏甲子園初出場で全国制覇。2016年から4年連続夏甲子園出場。サッカー部は2017年度に高校サッカー選手権優勝。