自然に恵まれた環境で成長する選手たち。
地域への感謝伝える「特別な夏」
「川根留学制度」によって広いエリアから選手が集う川根。
大自然のグラウンドで選手たちはたくましく、成長している。
この夏は、地域への感謝を伝える時だ。
2020年7月号掲載
(取材・栗山司)
■ 「留学制度」で学校に活気が戻る
JR金谷駅から大井川鐡道で約1時間。
駿河徳山駅から5分ほど歩くと、川根の校舎が見える。
大自然に恵まれた環境の中、グラウンドでは選手たちの元気のいい声が響き渡る。
高校のある川根本町の総人口は約6600人。
町は年々少子高齢化が進み、昨年度の県が公表した結果によると高齢化率は49.47%(県2位)となっている。
町の過疎化に比例するように川根も生徒数の減少に歯止めがかからず、2011年以降は毎年定員割れ。
野球部は、何とか部員数を確保している状況だった。
その打開策として、2014年度から始まったのが「川根留学制度」だった。
従来、生徒は通える範囲の川根地区近辺に限定されていたが、川根本町による支援で、県内全域から入学希望者を広く募集。
さらに2018年度からは全国公募で県外からも生徒を受け入れ、2019年度には6名が入学した。
町は2億円を投じて寮を設置。川根留学生はその寮で暮らす。
野球部も現在、県内各地から続々と選手が入部。
昨年は県外選手も誕生した。
■ 昨秋は強豪を苦しめる
川根を率いるのは森下和光監督だ。
15年間に渡って監督を務めた鈴木亮氏(現部長)の後を引き継ぎ、昨年秋から指揮をとる。
森下監督に川根の印象を伺うと、こんな答えが返ってきた。
「最初に感じたのは投げる、打つといった選手個々の能力が高いこと。ただ、それを試合で発揮する力がまだまだだった」
昨秋の中部大会では島田商と対戦。
9回裏、あと1人から同点とされ、延長10回の末にサヨナラ負けを喫した。
「秋は悔しかったです」と話すのが緒方幸尋主将だ。
「もう勝ったと思ってしまった部分があって。自分たちの集中力が足りませんでした」
そんな秋の反省を糧に、森下監督が理想に掲げるのは、選手が主体的に物事を進めるチームだ。
「寮生活でも野球でも、自分で必要なこと、必要な努力をやっていこうと言っている」
指示で動くのではなく、選手が主体的に動くことで、ワンランク上のステージに行けると考える。
■ 県制覇を目指す!
オフシーズンは体重、スイングスピード、投球スピードを定期的に測定。
数字を明確に表し、可視化することで選手のモチベーションアップにつなげた。
チームがスローガンとして掲げるのは県制覇。
その試金石と考えていた春の大会は中止となった。
中部大会の初戦で名門・静岡と対戦する予定だっただけに肩を落としたが、夏の代替大会に向けて気持ちを切り替える。
「温かい地元のみなさんの期待に応えたい」と森下監督。
夏までに主体的なチームを作り、「川根旋風」を巻き起こす。
川根高等学校
【学校紹介】
住 所:静岡県榛原郡川根本町徳山1644-1
創 立:1963年
甲子園:なし
2014年より「川根留学生制度」を開始。県内外から広く生徒を募集する。また、連携中学と中高一貫教育を行っている。野球部は1976年創部。
3年目には県ベスト8に進出した。卒業生には山本勝則(元プロ野球選手)、カヌーで2012年のロンドン五輪に出場した大村朱澄がいる。