二人の熱血指導者によるチーム改革
「甲子園から招かれるチームになれ」
春夏計13回の甲子園出場を誇る前橋工。
10年間、甲子園から遠ざかる伝統校は今秋から、新指導体制となった。
二人の熱血指導者がチームを変えていく。
2020年10月号掲載
■ツインバズーカ誕生
何かが起きる予感が漂っている。
前橋工は今秋から、髙橋寛人監督、久保田圭祐部長が「二人三脚」で指導にあたる。
高橋監督は、前橋工OBで前高崎工監督。
選手の長所を伸ばしていく指導に定評がある。
久保田部長は前利根実監督。
情熱と知識のハイブリッド指導で金星を挙げてきた。
ふたりは2020年4月の異動で前橋工に着任、今夏大会後から監督、部長として伝統校の指揮を任された。
周囲も驚く異色のコンビ。
髙橋監督は「久保田部長とは野球観、指導方針の共通点が多く、練習が終わってからも2時間くらい話し合える関係です。周りの方々からは『ツインバズーカ』と呼ばれていますが、選手のためにやるしかないと思っています」と笑みをみせる。
ふたりの最初の仕事は、技術指導ではなく、人間力指導だった。
挨拶・礼儀・整理整頓・・・心を整えることでチームのムードは一気に変わった。
■意欲的に練習に取り組む選手たち
新生・前橋工の練習は、「集団走」から始まる。
全国の強豪が軒並み取り入れている方法で、選手たちは足と声を揃えて外野フィールドを走る。
利根実時代に、農大二を撃破した経験を持つ久保田部長は「足を揃えることで、気持ちが揃ってきます。良い習慣が技術向上につながっていくと考えています」と話す。
新チームは2年生20人、1年生10人の計30人でスタートを切った。
甲子園常連だった時代と比較すれば選手個人の力は劣っていたが、選手たちは野球に飢えていたという。
夏休み中、選手たちは懸命にボールを追い、バットを振った。
新学期からの朝練習では、開始時刻の相当前から監督、コーチの到着を待ちわびているという。
髙橋監督は「選手たちからは、うまくなりたいという熱い気持ちが伝わってきました。指導をしていて清々しい気持ちになれる選手たちが今の前橋工には集まっています。だからこそ結果を導いてあげたいと思っています」と選手に向き合う。
■新たなチャレンジにしたい
新チーム始動後、バックネット横には「硬式野球部掲示板」が設置された。
そこには、「指導方針」「活躍する選手の条件」などが張り出されている。
チームの目標は「甲子園から招かれるチームになる」こと。
甲子園でプレーするのにふさわしいチーム、選手になることを強く求めている。
戸塚一徹主将(2年=内野手)は「新チームでは技術に加えて人間的な部分の大切さを教えてもらっています。1プレー1球を大切にして、勝てるチームを作っていきたいと思います」と意欲をみせる。
前橋工は2010年春の選抜出場以降、10年間、甲子園にたどり着いていない。
前橋工を語るとき「復活」の二文字が使われるが「復活」ではなく、「新たな前橋工」を目指すという。
髙橋監督は「これまでの選手たちも精一杯頑張ってきた中で甲子園に届いていないということは、何かを変えなければいけないということ。伝統の力を借りながら、新しい前工を作っていきたいと思います」と語る。
指導者の情熱と、選手たちの熱意が、新たな歴史を創造していく。