【東京実業 高校野球部】「大物食い」

 

2019年の東東京大会初戦の2回戦で東亜学園を鮮やかに破り「大物食い」を果たした東京実業。

ベテラン指揮官にその極意を聞いた。

■ 東東京で数々の強豪撃破

東京実業は百戦練磨の山下秀徳監督のもとベスト4へ3度進出した確固たる実績を持ち、甲子園に近い存在として存在感を示している。

大舞台で底力を発揮するチームは、東東京を舞台に数々の「大物食い」を起こしてきた。

1996年夏4回戦では前年度全国制覇の戦力が残る帝京を返り討ちにしてその名を轟かせた。

チームは2007年夏、2013年夏に4強、2015年夏に8強進出するなど強豪キラーぶりを発揮。

2017年春2回戦では日大鶴ヶ丘に土をつけベスト8へ進出、近年でもたびたび「大物食い」を果たしトーナメントを駆け上がってきた。

そんなチームが今夏もサプライズを起こしてみせた。

■ 野球は戦力勝負ではない

今夏の東東京大会初戦の相手は東亜学園。

プロ注目選手を擁して甲子園を狙った東亜学園の力が上なのは確かだった。

山下監督は「100人に聞いたら、90人以上が東亜さんが勝つ、と言ったと思います。

戦力的にそのくらいの差があった。

でも野球は戦力だけの勝負ではない、うちは格上相手だと、いつも以上の力を発揮できる」と話す。

戦いは、試合前シートノックから始まる。

山下監督は普段から、対戦相手に合わせてノックの難易度を変えて士気を高めていくという。

「ギリギリで取れるボールを打って、選手を乗せていく」(山下監督)。

■ 目の前の打者に集中

27個のアウトを取ることだけに集中した。

先のイニングを考えず、目の前の打者から一つずつアウトを奪うことだけを黙々と実践した。

指揮官は「野球は、アウトを一つずつ取っていくだけのシンプルな競技」と、言葉に意味を込める。

背番号1のエース宮内翔生(3年)が130キロ後半のストレートを軸に、粘り強いピッチング。東京実業は、初回に2点を先制し優位に進める。

ポイントは2対1で迎えた5回だった。この日、指揮官がメンバー票交換直前まで起用を悩んだ2年生・佐藤翔(外野手=新チーム主将)が殊勲のタイムリーを放ち、1点を追加した。

起用のポイントは、ポテンシャル。東亜の投手陣のレベルが高かっただけに、それを打ち返せる可能性に懸けたという。

佐藤は「3年生のためにも自分が打たなければいけないと思った。監督の期待に応えられて良かった」と振り返る。

■ 絶妙なタイムタイミング

ゲームは3対1で終盤へ向かった。

ワンプレーで戦況が変わる緊迫した状態の中、山下監督は3度のタイムを有効活用。

8回までにすべてのタイムを使い切ったが、その“間合い”が相手の流れを止めた。

山下監督は「伝令を送るタイミングは極めて重要。ピンチが広がる前に、流れを切らなければいけない。

戦況によっては2度、3度続けて、使うこともある」とタイムの必要性を説く。

指揮官の采配と、選手の執念が合致したチームは3対1で勝利、またしてもジャイアント・キリングを演じてみせた。

■ 新チーム始動後は連戦連敗

夏大会4回戦で進撃は止まったが、チャレンジは止まらない。

メンバーが入れ替わった新チームは夏休み中の練習試合で負けっぱなしだった。夏を経験した佐藤主将、1年生スラッガー十鳥真乙(1年=外野手・投手)らタレントはいるが、1年生レギュラーも多く、いまは試練のときだ。

ベテラン指揮官は焦らずにじっくりと選手を見守っている。

「負けたり、悔しさを味わったり、失敗したりすることでしか学べないこともある。1年間を通じて、選手として人として成長することが大切。夏の大会は、選手にとっての“通知表”。夏に集大成を見せられるように鍛えていきます」。

東京実業は、次なる番狂わせを虎視眈眈と狙いながら、悲願の甲子園へのルートを切り拓く。


東京実業高等学校

【学校紹介】
住 所:東京都大田区西蒲田8-18-1
創 立:1922年
甲子園:なし
普通科、機械科、電気科からなる私立実業高校。最寄駅は「蒲田」。電気科には「ゲームITコース」もある。野球部は学校から約15分の多摩川グラウンドで練習している。部活動が盛んで、陸上競技部、マーチングバンド部、男女サッカー部などが強豪。野球部OBに庄司智春(芸人)。

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