2020夏、「市高」の新たな伝統
過去3度甲子園出場、もう一度聖地へ
伝統校・静岡市立がベスト8進出を果たした。
準々決勝で駿河総合に惜敗したものの、特別な夏に、選手たちは成長した姿をみせた。
2020年9月号掲載
(取材・栗山司)
■自己犠牲のスタイルで躍進
「市高」の名を県内に轟かせた夏となった。
過去3度甲子園出場を誇る名門だが、2001年夏を最後に聖地から遠ざかっている。
再建を託され、2017年から静岡市立を率いるのが安井信太郎監督。
緻密な野球をチームに植え付け、2018年夏に県ベスト8進出。
頂上まで手の届く位置まできている。
今年はスター選手が不在も、総合力で勝ち上がった。
安井監督は大会前、「甲子園がなくても高校野球をやり切ろう」と選手に訴えかけた。
「コロナの期間の影響もあってか、自分の結果にこだわる選手が多かった。ただ、それが高校野球の本来の姿だとは思わなかった。自分がどうなっても勝ちに貢献する。その自己犠牲のスタイルこそ、高校野球の姿ではないか。選手と話し合い、大会が近づいて全員が勝利を第一にプレーするようになった」
初戦は好左腕・脇水大翔を擁する常葉大橘に対し、ワンチャンスをものにして逆転勝利を飾る。
3回戦では昨秋の中部大会で敗れた東海大静岡翔洋と対戦。
タイブレークの末に勝ち切る。
チーム全体に自己犠牲の考えが浸透。
安井監督は「大会を通して成長した」と目を細める。
■エース・望月が急成長
快進撃の立役者となったのがエースの望月大星(3年)。
中学時代は県優勝を経験。
期待されて高校に入学するも、2年間は思うような結果が出なかった。
そんな中で「何かを変えよう」と3月の休校期間中に思い切って腕の位置をサイドまで下げた。
すると、指のかかりが良くなり、キレと制球力が向上した。
今夏は全試合で先発。
4回戦まで26回1/3を投げ、自責点は3。
ストレートと変化球のコンビネーションが冴え渡った。
準々決勝(対駿河総合)も7回まで1失点。
本調子ではなかったものの、丁寧に低めを突いた。
だが延長8回、タイブレークの末に力尽きる。
表の攻撃で3点を奪ったが、4失点。
「自分たちのやることができたと思うし、すごく楽しかった。後悔はないです」と、試合後は清々しい顔を見せた。
安井監督は「今日の状態の中で最高のピッチングをしてくれた」と称えた。
■チームが一つになった夏
打線でキーマンとなったのが主将の金子大悟(3年)。
4回戦の市立沼津戦では初回に推定130メートルの特大本塁打を放った。
だが、準々決勝ではチャンスで凡退。
試合後は「キャプテンとして仕事を果たせなかった」と悔し涙を流した。
チームを一つにまとめようと、苦心に苦心を重ねた1年間。
「最後はみんながチームのことを思ってプレーしてくれました。
『ありがとう』と伝えたいです」と感謝の言葉を口にした。
ピンチを乗り越え、粘り強く戦う姿勢は「市高」の新たな伝統として生き続ける。