隙間時間で強くなるチーム
地力着々、今秋はベスト16
市立金沢が着々と地力をつけている。
2018年春・夏にベスト8進出、今秋はベスト16へ。
神奈川の公立最強チームが、私学強豪の壁を越える瞬間は確実に近づいている。
2020年12月号掲載
■私学強豪の壁
チームを率いるのは、横浜高出身の吉田斉監督。
2003年の横浜高主将で、選抜準優勝となった世代だ。
大学卒業後に横浜市の教員となり、横浜商を経て2017年に金沢野球部部長、2018年秋から正式に指揮を執る。
金沢着任以来、チームは実力を伸ばしてきた。
最近3年間の県大会で金沢が敗れたのは、私学強豪と呼ばれるチームばかり。
2019年夏2回戦は鎌倉学園、2019年秋3回戦は桐蔭学園、2020年夏3回戦は藤沢翔陵に敗れた。
だが、いずれの試合も僅差のゲームで、番狂わせを起こしても不思議ではなかった。
くじ運が良ければ、さらに上まで進んだ可能性が高い。
2020年の新チームも3回戦で横浜と対戦、4対11で敗れたが、来春・夏への確かな手応えを感じさせたゲームだった。
選手たちは私学強豪の壁を打ち破るべく、自主的な練習を重ねる。
■選手の力を引き出す
吉田監督は、選手たちを見守り続けている。
勝利至上主義のセオリーをそのまま持ち込めば、もっと早く結果が出るかもしれない。
しかし、選手たちを型にはめる指導法は選択していないという。
指揮官は、進学校・金沢の学校環境の中、限られた練習時間、選手でいかに勝つかを考えてきた。
そして、選手の力を最大限に引き出すために、「自主性」と「考える野球」を重んじてきた。
吉田監督は「金沢の選手たちは、すべての答えを教えるのではなく、一つのヒントを提示することによって自分たちで考えることができる。それが生徒たちの将来に役立っていくと感じている」と語る。
練習中は、打撃練習やシートノックの「隙間時間」を有効に活用する選手の姿が見られる。
1日10分の「隙間時間」を積み上げれば、年間で3650分。
金沢は、隙間時間で強くなる。
■「want」から「will」へ
今季のチームは、個性豊かな選手、そして努力ができる選手が揃っている。
投手陣の中心は、エースの金井優輝。
最速132キロの直球と、スライダー、チェンジアップなどの変化球を操り、相手に的を絞らせない。
金井は「春までに球速を上げて、ピンチで三振が取れるピッチャーになりたい」と練習に励む。
4番に座るのは、力強い打球を右中間に飛ばす左のスラッガー切無澤諒也(2年=外野手)。
チームは秋季大会後の練習試合で、本塁打が多く飛び出すなど、打線の迫力は増す。
森永夢士主将(2年=内野手)は「秋季大会で横浜高と対戦して、できる部分もあった。これからは私学強豪に『勝ちたい』ではなく本気で『勝つ』という意志をみせたい」と覚悟を決める。
「We want to win」から「We will win」へ。その意志が、壁を打ち砕く。