BCリーグ埼玉武蔵ヒートベアーズ
由規 投手コーチ兼投手(仙台育英高−ヤクルト−楽天)
這い上がるたびに増す現役続行への思い
現役14年目、まだまだ上手くなりたい!
宮城県の名門・仙台育英で3回甲子園出場を果たし、2007年のドラフトでは5球団からから1位指名を受けた豪速右腕・由規。昨季より在籍するBCリーグ埼玉武蔵ヒートベアーズでは、今季から投手コーチも兼任している。現役選手としてひたむきな姿を見せる由規に、野球への思いを聞いた。
名門からドラフトの大注目株に
―仙台育英のご出身です。
自宅から電車と自転車で約1時間かけて通っていました。遅くなるときもありましたが、家に帰れば母親が作った夕食が毎日ありました。当時はそれが当たり前だと思っていましたが、今考えればそれも幸せだったと思います。僕の場合は、通いだったからこそ野球に専念できたのかもしれません。
―投手として頭角を現したのは?
1年生の春からベンチ入りしていましたが、夏は県大会の準々決勝で負けてしまいました。テレビで甲子園の試合を見ていたら、大阪桐蔭の中田翔(巨人)が投げていて、衝撃を受けました。「同じ1年でこんなにすごい奴がいるんだ…」と。当時、僕は内野手で、たまに交代で投げていたのですが、「やるからにはここに追いつきたい」と思いました。そこから本格的に投手の練習を始めて、秋季大会で140キロをマークできたのです。ライバルの東北高校相手に7回無失点で抑えて、一気に自信が湧いてきました。
―高校時代で一番印象に残っている試合は?
2年夏の県大会決勝・東北高戦です。先発して延長15回まで投げましたが勝負がつかず、翌日に再試合となりました。1日目に力を出し切ってはいたのですが、2日目も「行きます!」と自ら志願しました。この日も完投して6対2で勝ち、甲子園行きを決めました。その2日後には抽選会、5日後には甲子園で試合というハードスケジュールでしたが、最後は気力と精神力で戦いました。最近は「根性」という言葉はあまり使われなくなりましたが、実はこれなしに野球に向き合うのは難しいと僕は感じています。究極につらい場面で最後に助けてくれるのは心の部分だと思います。
―ドラフトでは5球団から1位指名を受けました。
2年夏の初甲子園が転機となって、3年の選抜大会から具体的にプロの道が見えてきました。なので、ドラフトで指名を受けた時は僕も家族も号泣で(笑)。「やってきたことは間違いじゃなかった」と、すべてが報われた瞬間でした。5球団から1位指名というのはありがたいことですが、何よりプロという舞台にたどり着いたことがうれしかったです。
初めての長期離脱
―プロの世界に入ってみてどうでしたか?
勝利への重圧や緊張感がすごくて、1シーズンが終わるとクタクタになりました。でも、それは充実していた証拠だと思います。4年目に肩の違和感でローテーションを外れました。そのまま1年間投げられず、焦りましたね。発症から1年半経って手術に踏み切りました。その後もリハビリで、つらくもどかしい日々が続きました。結局治療に5年間を費やし、その間2軍、育成も経験しました。
―そこを乗り越えて復帰した時にはどんな思いがありましたか?
マウンドに立った時にお客さんから大歓声をもらって、こんな幸せなことはないと思いました。あきらめずにやってきてよかった。ドラフト以来の報われた瞬間でした。その日は初めて勝ち負けを気にせず、一球一球をかみ締めるように投げました。手厚いケアで自分をマウンドに戻してくれた人たちのためにも、野球をやめるわけにはいかない。続けられる限り野球を続けようと、そのとき心に決めました。ケガを乗り越えたからこそ見えた景色があったのだと思います。
―その後楽天からトライアウトで武蔵へ移籍します。
ヤクルトから移籍した楽天で戦力外になって、引退か続行か、自分の中でケジメをつけるためにトライアウトを受けました。そこで社会人チームを含め複数の球団からオファーをいただいて、「まだやりたい」という気持ちを再確認できました。(埼玉武蔵ヒートベアーズの)角監督がこまめに連絡をくれて熱意を感じたので、ここでお世話になることにしました。角監督は、スカウトが来る日に合わせてローテーションを組んでくれて、僕を再びNPBの舞台に送るため全力でサポートしてくれました。本当に感謝しています。
選手兼指導者として新たな出発
―昨季はNPB復帰となりませんでした。
NPBの移籍期限の7月までにどれだけピークを持って来られるかが勝負だと思って頑張りましたが、声は掛かりませんでした。でも意外にも僕の中で士気が落ちることはありませんでした。それまではNPBに戻りたい一心だったのに、チームのために、という思いが強くなっていきました。その思いが実って昨季チームは初優勝しました。改めて振り返ると、独立リーグという環境であっても応援してくださるお客さんがいますし、物足りなさは全然ありませんでした。自分はとにかく野球をやりたかったのだと思います。今、心から野球を楽しめているのは、すべて環境を作ってくれている人たちのおかげ。だから、続けられるだけ続けたいという思いです。
―今後の目標を教えてください。
今年から、投手と兼任して投手コーチという新たな役職をいただきました。コーチとして1人でも多くNPBに輩出できるように選手を育てたいです。教えることは初めてなので、言葉にするのが難しいかもしれません。でも、僕は現役選手です。伝えたいことを自分のプレーで体現できるのは兼任の特権であり、僕が一番の教材。良いプレーも失敗プレーも見て学んでほしいと思っています。僕はまだ「上手くなりたい」という気持ちが消えないのです。兼任だからといって言い訳せず、選手としてまだまだ自分に磨きをかけていきたいです。
―高校球児にメッセージをお願いします。
コロナ禍であってもそうでなくても、しっかりと目標を決めて励んでほしいと思います。練習をするときは、最初に現状を理解することから始めるといいです。ピッチャーならシャドーを動画に撮って、自分で改善点を把握してみてください。そこからやるべき練習が見えてきます。チーム全体での練習ができない時があるかもしれませんが、むしろ個人練習が一番大事です。やった分だけライバルとの差も広がりますし、一人ひとりの意識次第でチームは絶対に強くなると思います。
PROFILE
由規(よしのり) 1989年12月5日宮城県出身。本名は佐藤由規。仙台育英高−ヤクルト−楽天。2021年埼玉武蔵ヒートベアーズ入団。高校時代3回甲子園に出場。155キロ超の豪速球を武器にドラフト1位でヤクルトへ。3年目に自身最多の12勝を挙げる。独立リーグ2年目となる2022年シーズンから投手コーチを兼任。