夏甲子園3度出場の強豪。
未知の時間を乗り越えて次の一歩を踏み出す
2012年以来の甲子園を狙っていた強豪・常葉大橘。
甲子園は中止となったがチームはコロナ禍を乗り越えて、逞しさを増した。
気持ちを切り替えた選手たちは一丸となって代替大会へ向かう。
2020年8月号掲載
(取材・栗山司)
■ コンバートでチーム力を上げる
常葉大橘は過去3度の甲子園出場を誇る。
2009年夏は庄司隼人(現広島スコアラー)を擁してベスト16入りを果たし、一躍その名を全国に轟かせた。
2017年秋にはOBの片平恭介監督が就任。
伝統の足を使った攻めの野球を進化させ、2012年以来の聖地を虎視眈々と狙っている。
今チームは昨秋の中部大会で敗退。
県大会出場を逃した。秋から冬にかけ、片平監督は選手の奮起を期待して守備位置を大幅にコンバート。
春の大会の巻き返しを見据えていた。
コンバートの目玉は二塁から捕手に回った櫻庭樹士(3年)だった。
昨夏の県大会は5打数5安打で10割を記録。
走っては50メートル6秒フラットの俊足を生かし、次々と進塁した。
昨年の秋から主将、捕手、そして4番打者を務める、まさにチームの要だ。
櫻庭は「大変な部分もありましたが、自分で考えてやる切ることで責任感が出てきました」と話す。
投手陣は髙橋遥人(現阪神)二世と呼ばれる長身サウスポーの脇水大翔が成長。
片平監督は「春にブレークさせたい」と目論んでいた。
■ 勝負にこだわる夏
しかし、春の大会、そして夏も中止に。
片平監督が「正直、どういう言葉を選手にかけたらいいのか分からなかった」と言えば、櫻庭は「言葉が出ませんでした」と当時の心境を吐露する。
その後、休校が明けると、櫻庭を中心に3年だけでミーティングを行った。
もともと、新チームが結成された際の目標は甲子園出場だった。
挑戦することが叶わず、気持ちが沈んでいる選手を前に、櫻庭は「代替大会があるとしたら3年生だけで出場するのか、それとも下級生も入れて全員で競争するのかを決めよう」と投げかけた。
「色々な意見が出ました。最終的には、勝ちにこだわるべきだということで、上級生も下級生も関係なく、優勝を目指そうということで全員一致になりました」
この学校に入学したのはどんな目的があったのか。
勝つためではないのか。出した結論に、片平監督は選手の成長を感じたという。
「私の中では今回は3年生だけで戦うことも考えていた。
でも、『ガチのメンバーで戦いたい』と言ってきたことがすごく嬉しかった。一人ひとりの成長を感じた」
この日の練習では、櫻庭を中心に元気よく動き回っていた常葉橘ナイン。上級生、下級生関係なく、必死に1つのボールを追いかける。
「代替大会ではこれまでやってきたことを全員で出して、後輩に橘の積極的な野球を見せていきます」(櫻庭主将)
2日間のミーティングを経て、逞しくなった常葉大橘ナイン。誰も経験したことのない未知の時間を乗り越え、歴史に新たな1ページを刻む。
常葉大学附属橘高等学校
【学校紹介】
住 所:静岡県静岡市葵区瀬名2丁目1番1号
創 立:1963年
甲子園:夏3回
国公立大や難関私大への合格を目指した英数科や総合進学コース、吹奏楽・美術などの感性を伸ばす総合芸術コースなど、特色のある学科で学ぶ。野球部は過去3回の甲子園出場を誇り、OBには庄司隼人(現広島スコアラー)、髙橋遥人(阪神)がいる。