【前橋商 野球部】「特別な優勝旗」

2019年夏準優勝、先輩に誓った今夏の優勝。

チーム一丸、本気で挑む「特別な夏」

昨夏の群馬大会で準優勝した前橋商。

先輩たちの思いを背負って今夏の甲子園大会出場を狙ったが、その夢は叶わぬものとなった。

選手たちは、「前商」の誇りを胸に代替大会での優勝を狙う。

2020年8月号掲載

■ ベールを脱ぐ背番号1


今夏のエース橋本優雅(3年=投手)は最速143キロの右の剛腕。

「前商で私学を倒して甲子園へ行く」という野心を胸に入学した。

昨夏は2年生ながらベンチ入り、絶対エース井上温大(巨人)の魂の投球を間近で見た。

橋本は「井上さんは、ブルペンでの1球を大切にしていました。

それが夏大会につながったと思います」と昨夏の準優勝を思い起こす。

先輩たちの雪辱を果たすため自分たちの代で甲子園を目指したが、新チームの昨秋大会は、右肘などを痛めて登板機会がなかった。

今春にケガが完治し、春大会を待ったが、コロナ感染拡大によって春が消え、そして甲子園大会も中止となった。

中止発表当日夜、住吉信篤監督から電話連絡を受けて、電話口で一人泣いた。

「自分はこのチームになって一度も投げていない。代替大会では、チームと自分の力を示して優勝したいと思います」。

前商のエースが、最後の夏にベールを脱ぐ。

■ 狙うは「代替大会の優勝旗」


小池悠人主将(3年=内野手)は、攻守の技術とキャプテンシーを備えたショートストッパー。

長野原西中出身。同郷の唐澤愛斗(3年=捕手)の誘いで、前橋商でプレーすることを決めた。

唐澤、野口翔太(3年=外野手)とともに、学校近くのそば店2階に下宿し、店主らの支援のもと共同生活を送っている。

キャプテンとして春、夏大会へ備えていた矢先に、学校が休校となり、不安の中で実家へ戻った。

「練習ができることが当たり前ではないことがわかりました。甲子園大会が中止になったときは正直、どうすればいいのかわかりませんでしたが、練習再開後、みんなの顔をみて、気持ちが引き締まりました。野球ができることに感謝しながら、代替大会では思い切りプレーしたい」。

狙うのは、唯一無二の代替大会の優勝旗だ。

「みんなの力で特別な優勝旗を持ち帰って、学校に飾りたい」。

小池は、前商のプライドを胸に夏の舞台へ向かう。

■ 逆境だからこそ頑張る価値

3月上旬からのコロナ休校期間中、チームは自主練習を余儀なくされた。

週1回、ウェブトレーニングを行ったほかは選手の意思に任せた。

自宅での自主トレとなった選手たちは、互いに励まし合い、最後の夏へ備えた。

だが、5月20日に、甲子園大会中止の発表がなされた。

住吉監督は、選手の気持ちを案じて、3年生全員に電話連絡したという。

指揮官は「メール連絡の方法もあるが、うちの選手たちは甲子園に行くために前商へ来てくれた。(甲子園大会中止を)私の言葉で直接伝えなければいけないと考えました」と話す。

選手たちは、その言葉をしっかりと受け止めて、前を向いた。

前橋商は6月13日から練習を再開した。

指揮官は、代替大会へ真剣勝負で挑むことを伝えた。

公立校の対外試合(練習試合)ができるようになったのは7月11日から。

限られた準備で代替大会へ臨むことになる。

投手陣の投球イニングを段階的に伸ばして、最終調整を行っていく。

「逆境だからこそ頑張る価値がある。代替大会は救済措置だが、3年生優先で試合をするつもりはない。一生懸命に練習して、試合に出ることに意味がある。本気で戦うことが、前商の流儀です」(住吉監督)。

選手たちは、昨夏の先輩が果たせなかった夏制覇を目標に、灼熱の球場に立つ。

前橋商業高等学校

【学校紹介】
住 所:群馬県前橋市南町4-35-1
創 立:1920年
甲子園:8回(春3回・夏5回)
甲子園出場春夏8回を誇る伝統商業校。OBに、漫画「タッチ」の作者あだち充氏がいるため、野球部グッズや移動バスなどに「タッチ」のイラストが使われている。野球部OBに、オリックスの後藤駿太。2019年秋には井上温大が巨人ドラフト4位指名。

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