【菅 野球部】「挑戦」

普通のことはやりたくない。

試行錯誤の連続で高みを目指す

2018年からチームを率いる中田直輝監督の下、県立野球部が様々な創意工夫を凝らした練習法で成長を遂げている。

(取材・大久保泰伸)

■ できるようになるために

けたたましい大音量がグラウンドに響き渡る。

スピーカーから流れるのは、甲子園のアルプススタンドのような「ブラスバンド演奏」や「応援団声援」。

中田監督は「夏の大会で桐蔭学園と試合をした時、スタンドからの応援がすごかった。

ベンチからの指示が伝わらず、選手も雰囲気に呑まれていたので、実戦的な練習をしようと考えた」と意図を話す。

隣にいる人と会話するのも困難なほどのボリュームだ。

菅は、昨夏大会初戦で、優勝候補に挙げられていた桐蔭学園と対戦して3対7で敗れた。

指揮官は「試合前には、世の中の人はみんな桐蔭が勝って当たり前だと思っているから、見返してやろうとゲキを飛ばした。

翌日ヤフーニュースの見出しは『菅高スゲー』でいくで、と言うたけど、やっぱり桐蔭は強かった」と関西弁で冗談交じりに笑う。

だが、夏の本番で強豪校と対戦した経験を無駄にはしない。

「普段と違う雰囲気の中で、選手たちは声も出ていなかった。

どうせ出ないなら、聞こえない状況を作ってやろうと思った。

騒がしい場所で会話をしたら、自然に声が大きくなるじゃないですか」。

できないことをできるようになるための試行錯誤のひとつ。

中田監督は「普通のことを普通にやるのは嫌い」と練習や指導法など、必ず何かひと工夫を加えている。

■ 新たな発見を手に「大人と話をさせる」

前任校の田奈高ではサッカー部の指導もしたという中田監督は、15年間公式戦で勝ったことがなかったチームを、シード校に勝利するまで成長させた。

「周りにいろいろ指導してくれる人がたくさんいて、いい環境だった」と謙遜するが、それまでの野球一色の環境から初めての別競技を経験し、新たな発見も多かったという。

「サッカーでは試合が終わったら、必ず相手のところに挨拶に行って、試合の感想などを監督に聞いたりした。

野球部ではそういう習慣はないが、今は試合後に選手を相手チームに行かせて、大人と話をさせようとしている」

普段の練習でも野球だけにとらわれず、異種目の結果を残している学校との合同練習も行う。

「うちの高校は陸上部が強いので時々、一緒に練習をさせてもらう。

校外でも公立のアメフトの強豪校やインターハイ常連のレスリング部などと合同練習をお願いした。

そこで良いと思う練習があれば、どんどん取り入れている」。

動作分析を行うトレーナーやメンタルコーチの指導も受け、大学の心理研究会に希望する選手を行かせることもあるという。

■ 秋の経験を次に活かす

学校では“一番怖い先生”として生活指導も行っている中田監督は、練習中も時には厳しい言葉で選手を叱咤するが、サッカー部での経験を経て「以前はすべて管理していたが、今は選手に何をやりたいか、どうしたいかを聞くようにして、選手に任せるようになった」と指導方針も変わった。

菅では赴任1年目の2016年、初のシード校になり、ベスト16進出を果たした。

そして今年のチームは、選手たちの「打のチームを作りたい」という要望から、練習時間の8割程度はバッティング練習に力を入れている。

秋大会前には、前チームからクリーンアップを任されていた主力選手が骨折するなど故障者が続出した。

それでも地区ブロック予選を勝ち抜き、県大会でも1勝を挙げた。

「4番の故障で逆に他の選手が奮起して、打撃がグングン上がってきた。

1年生にも良い選手が多いし、メンバーが揃えば楽しみ」と中田監督。

2回戦で日大藤沢に大敗したが「強豪校への対策は、慣れも大事」と、その経験も次に生かすつもり。

「普通のことを普通にやるのは、あまり好きではない。

それだと結果も普通ということになってしまう」と語る中田監督が率いるチームは、いつか、大きなことをやってくれそうな期待感を漂わせている。


神奈川県立菅高等学校

【学校紹介】
住 所:神奈川県川崎市多摩区菅馬場4-2-1
創 立:1983年
甲子園:なし
男女共学の公立高校。

平成30年度の生徒数は1117名で、1学年10クラス(2年生は9クラス)と県下でも有数の大規模校として知られる。

陸上部が全国大会の常連。

校舎がJリーグ東京ヴェルディの練習場から近く、ユース選手が編入してくるため、卒業生にはJリーガーが多い。

 

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