伊豆半島唯一の商業高。
地域の応援を力に「躍進」へ
伊豆半島唯一の商業校・伊東商。
就任2年目の大橋孝彦監督のもと“大人の集団”へと変わりつつあるチームは、地域の声援を力に進撃を試みる。
(取材・栗山司)
■ 大人の集団になるために
伊東商は伊豆半島唯一の商業高校だ。
チームを率いるのは就任2年目の大橋孝彦監督。
静岡、筑波大でプレーし、その後、テレビ局勤務を経て指導者の道へ。
強豪の尽誠学園(香川)でコーチを務めた経験も持つ。
日々の練習は環境整備から始まる。
全選手が集合すると、グラウンド内外に散らばり、15分間に渡って周辺の掃除を行う。
大橋監督によると、この活動は様々な意味を持つという。
「グラウンドをきれいにすることはもちろん、仲間とのコミュニケーション作りや変化に気づくことにもつながる」。
毎日の環境整備もあり、「美しい」という表現がピッタリとくるグラウンドに仕上がっている。
環境整備が終了すると、ウォーミングアップに突入。
全員で声と足並みを揃えてアップするチームがほとんどだが、伊東商は各自で行う。
大橋監督は「例えばダッシュが3本必要な選手もいれば、10本必要な選手もいる。
自分に何が足りないかを考えてほしい」と意図を説明。
体の仕組みを知ることにもつながるという。
その後の練習でも、「選手自身で考える」ことがキーワードになってくる。
例えば、この日の後半に組み込まれた走塁練習。
走者をつけ、バッターはマシン相手に打つ。
特徴的なのは守備についている選手が一人もいないこと。
走者は「こうなるだろう」と想定しながら、スタートを切るのか、ストップなのかを判断する。
また、投手には「球数制限」を設け、練習時のブルペンや練習試合の投球数は50球までと決めている。
「50球の中で、いかに効率よく投げるのか。
そこを考えてほしい」と大橋監督。
最近の練習試合では、少しずつだが、同じ50球でも、投げるイニング数が増えてきている。
目指しているのは大人の集団。
全体練習後は、それぞれの課題に向き合い、黙々とレベルアップに励む。
考えることが浸透してきている証だろう。
■ 台風被害のボランティア活動を行う
地域貢献にも積極的に取り組む。
9月8日から9日にかけて伊豆半島を直撃した台風15号。
伊東市では被害が大きく、数日間に渡って停電や断水が続いた。
大橋監督は「こんな状況で野球をやっている場合じゃない」と感じ、すぐに行動に移した。
部員は放課後、同市の老人ホームなどを訪問。
水を運んだり、落ち葉を拾ったり、2日間に渡ってボランティア活動を行った。
大橋監督は「高校生の力は重宝された。
なかには涙を流して『ありがとう』と言ってくれる方もいて。
生徒にとって貴重な体験となった」と話す。
数日後、学校にはお礼の手紙が届いた。
なかには「次は私たちが野球の応援に行きたい」という嬉しい言葉もあった。
そんな励ましに応えようと、来春に向けて、チーム力を上げる。
今秋の東部地区大会は2連敗。
2年生3人、1年生14人と下級生が多いチームだけに経験不足は否めなかった。
それでも、秋の大会後の練習試合では「ミスの質が変わってきた」と大橋監督は手応えをつかむ。
古屋幸輝主将(2年=外野手)が高らかに宣言する。
「来春の目標は県ベスト8です。
一人ひとりが高い意識を持っていきたいです」。
地域の期待を背に、伊東商の進撃がまもなく始まる。
【スローガン】学思罔殆(がくしもうたい)
前チームから「学思罔殆」という論語をチームスローガンとして大切にしている。
古屋主将は「教わったことを、自分たちで考えて行動に移さないと意味ない」と解釈。
全体練習後の自主練習ではスローガン通り、選手各々が自分で考えて課題に取り組む。
静岡県立伊東商業高等学校
【学校紹介】
住 所:静岡県伊東市吉田748-1
創 立:1963年
甲子園:なし
伊豆半島唯一の商業高校。
校訓は「開拓」。
商業教育を通して、「有徳のビジネスマン」を育成することに重きを置く。
野球部は2011年秋に県大会出場を果たし、21世紀枠の県推薦校に選ばれた実績を持つ。
OBには竹安大知(現オリックス)がいる。