【レジェンドインタビュー】「基本がすべて。基本の上に応用がある」中尾孝義(元中日、巨人、西武)

基本がすべて。基本の上に応用がある

3球団渡り歩いた“いぶし銀捕手”
中尾孝義(元中日、巨人、西武)

走攻守3拍子揃った捕手として中日、巨人、西武でプレー。1982年にはセ・リーグのMVPを獲得するなど捕手の可能性を大きく広げ、引退後は専大北上で高校野球指導を経験した中尾孝義氏が球児にメッセージを送る。

高校3年夏決勝で2度の敬遠

―高校時代を振り返って?
「文武両道の進学校を選ぶか、野球の道を選ぶかで迷った部分がありました。知人の方からのアドバイスや幼馴染との相談によって、進学校である滝川高へ進みました。ただ、高校時代は、ほぼ野球だけの時間でしたね(笑)」
―高校時代のポジションは?
「1年生のときは、肩が強かったこともありレフトを任されました。1年秋の新チーム始動のときに、キャッチャーを強化することになり、私がキャッチャーに指名されました。そのときマスクをかぶったのが捕手としてのスタートでした」
―最初に努力したことは?
「肩だけは強かったので二塁送球は自信があったのですが、それ以外はゼロの状態でした。キャッチャーというポジションは役割が多いので指導者からのアドバイスをもらいながら一つひとつを覚えていきました。高校時代は初心者だったので、いまの高校生キャッチャーを見ると、みんなすごく上手いと思います」
―高校時代で思い出すことは?
「練習が厳しかったことが一番です。下宿生活だったので洗濯も自分でしていたのですが、靴下などはグラウンドの水道で洗ってそのまま干していたので、いつもガビガビだったのを覚えています。試合で思い出すのは、3年生の夏に決勝で負けたことです。決勝の相手だった東海大姫路は、中学生のときに誘ってもらったチームでしたが、2回のチャンスで2度とも敬遠されました。最後は9回の攻撃だったのですが敬遠されて、次のバッターがヒットを打った中で、2塁ランナーが本塁で刺されてしまってゲームセットになりました。なんとも言えない気持ちでした。そのピッチャーからは、大学時代に対戦してホームランを打ってやりました(笑)」
―引退後は受験勉強に入ったのですか?
「高校2年生のときに、3年生の先輩の付き添いで慶応大のセレクションを見学しました。3年生の夏が終わったあとは六大学を目指して勉強しました。毎週末に都内で勉強会があり、兵庫から東京へ通って勉強をしました。そのときの勉強会には、江川卓さん(元巨人)もいました。一生懸命、勉強したのですが1年浪人したあとも合格できずに、最終的に専修大にお世話になることになりました」
―江川卓さんはどんな印象だったのでしょうか?
「高校時代に合同練習する機会があり、キャッチボールからまったくレベルが違っていましたね。軽く投げているのに、グンとボールが伸びてきて、本当に驚きました。シートバッティングで打席に入ったのですが、ストレートには食らいつけたのですが、最後は頭に向かってカーブが来て、それを避けたら急激に曲がってストライクになりました。あのボールは今でも鮮明に覚えています」

短所を消して長所を伸ばす指導

―プロ野球のコーチ活動後に、高校野球・専大北上(岩手)で3年間指導をしました。
「2017〜2019年の3年間指導をしました。専大北上は名門なのですが、基本が出来ていない選手が多いように感じました。最初は基本から徹底していって、秋と春は東北大会まで行くことができるようになっていきました。ただ、夏はどうしても勝てずに3年間、初戦敗退だったのです。そこは、心残りがあります」
―どんな指導をしたのでしょうか?
「キャッチボールの取り方、投げ方から指導していきました。相手の胸にボールを投げるところから始めました。基本が出来ていないと、応用ができません。そこには時間をかけていきました」
―選手を伸ばすには?
「長所を伸ばすという指導法がありますが、そのためには短所を消す必要があります。いまの選手たちの多くは、自分の弱点がわかっていなかったり、短所を克服できないまま高校まで来てしまっているのかもしれません。長所を伸ばすことはもちろん大事ですが、相手はその選手の弱い部分を突いてくるので、悪い部分を改善していかなければ全体のレベルは上がりません。 僕はキャッチャー視点なので、バッターの弱点が良く分かります。悪いところを消してあげると、選手はぐんぐんと成長していきます。アドバイスをしっかりと聞き入れる素直さや柔軟性も必要だと思います」
―高校生キャッチャーに伝えたいことは?
「ピッチャーのスピードが上がり、変化球の球種が増えている中で、キャッチャーも技術を高めていかなければなりません。その上でゲーム全体を把握していかなければいけないので、流れを読む試合感覚を身につけてほしいです」
―リードに必要なことは何でしょうか?
「僕の考えではリードは、相手の弱点を突いていくこと。ピッチャーの長所を生かすことも大事ですが、相手の弱点を突くことが一番大切です。また打者の好きなコースを把握して、その周辺のボールに手を出させることも必要です。リードを組み立てる前提として、ピッチャーのコントロールが必要なので、やはり基本がすべてだと思います」
―キャッチャーとして大事なことは?
「まずはピッチャー、チームメイトに信頼してもらうことです。そのためには、練習からしっかりと取り組む必要がありますし、相手の長所、弱点を見極める力が求められます。キャッチャーとバッターは、騙し合いですから、多くの経験を積んで、自分のリード、自分のスタイルを見つけてほしいと思います」
―高校生にメッセージをお願いします。
「自分が決めた道を突き進んでほしいと思います。疑問を感じたら、監督やコーチに相談しながら、指導者のヒントをもとに自分で考えてほしいと思います。練習が辛いのは当たり前なので、目標をしっかりと定めて、1年後、2年後、将来を見据えて頑張ってほしいと思います。夢に向かって努力が出来れば、すべてが楽しくなっていくと思います。最終地点は人それぞれなので、自分が決めたゴールへ向かって突き進んでほしいと思います」

 

 

PROFILE
1956年2月16日兵庫県生まれ。滝川高―専修大―プリンスホテル。中日、巨人、西武で13年間プレー。西武、横浜、オリックス、阪神でコーチ・スカウトを務めたあとに専大北上で高校野球指導。現在は野球解説者。

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