コロナ禍の“県相野球”
考え、鍛え、戦い抜き、太い束になる
偏差値68の公立進学校でありながら最激戦区・神奈川で存在感を示す県立相模原。“打撃の伝道師”佐相眞澄監督が率いる新旧チームの動向に迫る。(取材・三和直樹)
■即答した3年生たち
小気味良い掛け声と打球音。冬を迎えた県相グラウンドは、いつもの光景を取り戻していた。だが、そこにいる者たちの心に去来する感情は、1年前と大きく異なる。
「野球ができる幸せ、ありがたさ、親への感謝を選手たちは強く感じたと思うし、僕自身も改めて分かった」。チームを率いて10年目を迎える佐相監督は、コロナ禍の2020年を振り返って“変化”を口にする。
悔いはある。2019年夏に横浜を破って初の4強入り。意志を継いだ前チームは、経験もあり、仕上がりも良かったが、想定外の形で「甲子園1勝」の目標を失うことになった。それでも最後の夏は3年生25人全員がベンチ入り。東海大相模の前に4回戦敗退も、佐相監督は「満足できた部分はあったと思う」と寄り添う。
指揮官の心を打ったのが3年生たちの姿勢。甲子園大会中止が発表されてから数週間後、代替大会開催決定時のZoomミーティングの際、佐相監督が「(引退して)今から大学受験に切り替えてもいいぞ」と伝えるも、浜口優太郎(3年)主将は「全員で最後まで戦い抜きます!」と即答。事前にオンラインで話し合いを重ね、全員の気持ちを固めてあった3年生たちの自主性と団結力に、佐相監督は「感動したね。コイツらすごいなって」と目を細める。
実際、毎年恒例で5月末から6月上旬にかけて毎日行う「300メートル全力20本走」のハードなメニューを、部員たちは部活動休止期間中に自主的に遂行。佐相監督も1日4、50人、Twitter上で動画をチェックしながらの「リモート指導」を実施。コロナ禍の逆境も、県相ナインは最後まで全力を尽くした。
■“思い”を受け継いだ者たち
新チームは8月中旬、三密を避け、消毒、検温、さらに学校、保護者の理解・協力のもと、2泊3日の長野合宿からスタート。新主将となった白井助(2年=投手)は、息を吸い、姿勢を正す。「先輩たちは目標がなくなっても、最後まで戦い抜いた。自分たちの代も、自分で考えて、自ら動ける人間を増やしたい」。
夏合宿後、甲子園常連校との試合を重ねて自分たちの課題を再認識した。「強豪校と戦って一番に感じたのは、やっぱり体の大きさ」と佐相監督。新たに加圧トレーニングも導入してさらなる肉体改造に着手。2年生13人、1年生30人のチームは日々、進化している。
佐相監督は、「打力は平年並み。あとは投手力だけど、まだまだ経験不足。この冬でどこまで鍛え抜けるか」と課題を指摘する。2020年の最後は江ノ島での20キロ走で締めた。「今まで当たり前だったことが当たり前じゃなくなった。野球ができることに感謝しながら、チーム全体を底上げしていきたい」と白井主将は思いを強くする。
目的は「誰かのために」、合言葉は「束になる」――。グラウンド脇のホワイトボードに新たに付け加えられた「俺たちの思いはお前たちに託したぞ!」という3年生の文言とともに、県相ナインがさらに強くなる。例え緊急事態宣言が再発出されようとも、自分たちが目指すものに変わりはない。